2024.07.11 15:00

 「クルージング」はビジネスパーソンの旅の選択肢となるか?

オールインクルーシブだから 実現する旅の贅沢

同社のクルーズ料金には、船上での宿泊代に加え、船内での飲食(プレミアムワインなどは除く)、エンターテインメントなどの船上アクティビティ、寄港先でのツアー、無制限のWiFi、チップ代などが含まれる。予約クラスによっては前泊ホテルも付いてくる。クルーズブランドは数あれど「オールインクルーシブの船旅」は、同社がパイオニアだ。

例えば、日本人にいちばん人気だという地中海のクルーズは、10日間、ベランダ付きの部屋で7000ドルから。各地での観光や食事、移動にかかる金額や計画コストを考えれば、1日700ドルは割安に映るのではないだろうか。次の目的地に向かうたびに、いちいちパッキングするも必要ない。

「クルージングは移動手段ではなく、目的地でもある」とパイルは言う。そこをベースに、見知らぬ土地や文化に出会い、船上という特殊な環境で新たな交友関係を築く乗客も多くいるという。セレンディピティのある旅は、ビジネスパーソンにも魅力的だろう。

パイル自身、これまで世界中を旅しながら、シンガポールの「ラッフルズホテル&リゾート」や、中国とタンザニアの「ケンピンスキーホテルズ&リゾート」など、ラグジュアリーホスピタリティの分野でキャリアを積んできたビジネスパーソンのひとりでもある。そんなパイルの記憶に残るクルージングについて尋ねると、80代の両親と訪れたアラスカでの思い出を振り返った。

「サーモンの養殖場を見学して、カヌーに乗り、たくさんの花々が咲き乱れる庭園を巡りました。船上では、家族同士で絆を深める時間もありました。両親の希望で7泊のみの滞在となりましたが、アラスカの素晴らしさを堪能するのには14泊は必要。地上での移動が困難な地でのクルージングなので、多くの人に勧めています」

親世代は船上に残ってリラックス、子ども世代は寄港地のツアーに参加するなど、過ごし方をそれぞれが自由に選べるのも魅力なのだという。

一度体験すると拓ける世界もあるのだろう。この業界に身を置くまで、「クルージングを自分のキャリアとしても、旅の選択肢のひとつとしても考えていなかった」というパイルも含め、現在、同社の顧客のほとんどがリピーターで、船上でできた友人同士で次も一緒に、という人も多いという。クルージングと結びついていた“老後”や“贅沢”などのイメージが払拭された先には、船旅がメジャーな選択肢となる時代がくるかもしれない。


リサ・パイル◎リージェントセブンシーズクルーズアジア太平洋地区副社長兼ジェネラルマネジャー。ラグジュアリートラベル分野で経験を積み、2015年のアジア太平洋本部立ち上げ以来、同社のオーストラリアとニュージーランドのバイスプレジデントを務めた。

文=守屋美佳

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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