経営・戦略

2024.07.11 13:30

「進化」を生み出す新しい営業とは

イラスト=アンドレア・ムンザツィ

ニーズが多様化し続ける時代に、営業組織はどう変化すべきなのか。企業が見出した答えとは。


第2回目の開催となる「NEW SALES OF THE YEAR」。今回受賞したのは、オリジナルの新たな営業プロセスをつくりあげた企業だった。
 
審査会での選出理由についてふれる前に、NEW SALESとは何か、なぜ今必要なのかを振り返りたい。
 
痒いところに手が届くサービスは世にあふれる一方、顧客ニーズが細分化・多様化し続けているため、この変化に従来通りの営業方法では追いつかなくなったのは周知の通り。主要な消費財も世帯普及率を見るとほとんど100%に迫り、性能の良さで売れる時代でもなくなった。顧客の潜在的なニーズを見つけ出し、営業が課題の解決法を提示しなければならないというセリフを耳にタコができるほど聞かされている人は多いだろう。
 
こうした時代環境の変化は足枷だろうか。むしろ逆だ。外的環境の激変が生物の進化を促したように、「営業」の概念を自己流に進化させる絶好のチャンスではないだろうか。私たちが謳う「NEW SALES」のアワードは、営業の概念を変えようとしている企業の「進化のHow」を問うものなのだ。
 
進化とは一つの物語であり、物語の主人公たちがページをめくるごとに、制度、組織、習慣をどう変化させていったかを、みんなで共有しようという試みが、本アワードである。

ナレッジワークCEO、麻野耕司の著書「NEW SALES」を起点としたアワードであるが、麻野の著書を超えてこそが「進化」である。私たちは次の3つを審査項目に定めた。1. 顧客志向 2. 組織力 3. データ・ナレッジの活用である。

「一つの正解はない」

昨年の第1回には、営業改革に挑戦する姿勢を評価し、計5社を受賞企業に選んだ。今回、重視したポイントは、そうした挑戦が「定量的な成果につながっているか」である。
 
昨年に続き受賞した日本通運は、10数年前にSFA導入をしたものの活用が進まず中断した過去がある。その教訓を糧に情報やナレッジの全社共有を目的とした「セールスイネーブルメント部」を立ち上げ、一年で顧客対応可能時間を一人当たり新たに月8.4時間生み出すなどの結果を出し、利益率向上に貢献している。
 
こうした受賞企業に共通していたのが、ロールモデルを掲げてそれを目指すのではなく、業界や自社にあった方法を見つけ出し、変革を起こしている点だ。
 
グランプリを受賞したサイバーエージェントがその象徴だろう。同社は「価値観の共有」という共通基盤を作ることで、分業化で起きがちなサイロ化を防ぎ、柔軟性のある戦略や変革を可能にしている。共通基盤づくりは、多くの会社が挑戦しているが、サイバーエージェントの場合、独自の言語をつくって組織内の意識を集中させ、最適化のプロセスを構築。そのスピードも卓越している。同社の記事にはきっと多くの人がヒントと勇気を得たはずだ。

「ニューセールス」とは何だろうか。そう自問自答しながら、私たちは企画のスタート時からこのテーマと向き合ってきた。そして、受賞企業の取材を終えて、「一つの正解はなく、それぞれの企業にあった正解がある」と気づかされた。独自の正解を生み出した企業こそが、大きく進化したといえるだろう。
 
前述の麻野は審査会後にこう述べた。「これまではセールスツールを提供する側から、これから必要とされる営業とはなにかを説明し、そしてそれを促すようなアプローチをしていました。しかし、今年の受賞企業をみていると、データやナレッジを活用して試行錯誤しながら、自分たちにあったNEW SALESを生みだしている。生き物が進化の途中で、海に適応したり空を飛んだりするように、それぞれの企業にあった方法で進化している。ダーウィンの進化論のように、強い者が生き残るのではなく、変化できる者が進化する。企業変革の本質を見せられた思いです」。

編集=Forbes JAPAN編集部 イラスト=アンドレア・ムンザツィ

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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