これは、腸内細菌が、不安感を引き起こす脳内化学物質と相互作用を起こすことによるものだ。この発見は、食べるものの選択について、単なる体重増減の懸念というレベルを超えて考え直す必要性を浮き彫りにしている。
この研究は、米コロラド大学(UC)ボルダー校で実施され、その結果は学術誌『Biological Research』に掲載された。ラットを用いたこの研究では、飽和脂肪を大量に摂取する食生活が、腸内細菌、行動、そして脳内化学物質の状況に影響を与えるかどうかが検証された。
飽和脂肪は、主に畜産物や熱帯油脂(パーム油やココナツ油など、熱帯地域に生える植物からとれる、常温で固形の油脂)に存在する成分で、脂身の多い肉や加工肉製品(ベーコンやサラミ)、チーズ、生クリーム、バター、ココナツ油、パーム油、アイスクリーム、ギー(インドなどで用いられるバターオイル)、ラード、ビスケット、ペストリー、ケーキ、パイなどの食品に多く含まれている。
高脂肪の食事をとることで、飽和脂肪が体内に取り入れられた場合、腸内膜を形成する細胞内におけるミトコンドリアの機能を阻害することが知られている。
今回の論文主著者で、UCボルダー校の教授(統合生理学部)を務めるクリストファー・ローリーは、こう指摘している。「こうしたものが健康に良い食べ物だと言えないことは、誰もが知っている。だが人は、『多少体重が増えるだけ』というように、その影響を限定して考えがちだ。こうした食品が脳にも影響を与え、不安感を増大させる恐れがあると知れば、人々の懸念は高まるだろう」
研究チームは今回の実験の中で、ラットの大便サンプルを収集し、マイクロバイオーム(腸内細菌叢)を評価した。そして研究期間の終わりには、テストを用いて、食事がラットの行動に影響を与えるとしたら、具体的にどんな影響があるのかを特定した。
高脂肪のエサを与えられていたラットは、9週間の研究期間の終わりには、予想にたがわず、対照群と比べて体重が増えていた。さらにこれらのラットでは、腸内細菌の多様性が大幅に減少し、その細菌の比率は、工業化後の社会に暮らす人間における比率や、肥満症に関連づけられる比率に近くなっていた。
一般に、腸内細菌の多様性と健康状態のあいだには相関関係がある。多様性が少ない個体では、健康状態が悪化していることが多いとされている。
高脂肪群では、神経伝達物質の一種であるセロトニンの生成と、シグナル伝達に関わる3つの遺伝子の発現レベルが上昇することが確認された。これは特に、ストレスと不安に関連づけられている脳幹の部位に顕著だったという。
セロトニンは、「幸福感」をもたらす脳内化学物質として広く知られているが、セロトニン神経系の一部のサブセットでは、活性化した際に、不安に似た反応を引き起こすことがある。特に、脳幹における発現レベルの上昇に、ストレスや不安とのつながりがあることが判明している3つの遺伝子のうち1つについては、人間においても、うつ病などの気分障害や自殺リスクの上昇につながるとされている。
「高脂肪の食事をとっただけで、これらの遺伝子の発現に変化が生じるというのは、定説を覆す考えだ」と、ローリー教授は述べた。「今回の実験で高脂肪のエサを与えられたグループの脳では、まさに不安レベルの高い状態であることを示す分子的特徴が確認された」