高いお金を出して偽物をつかまされないためには、どうすればいいのだろうか。国内オークションハウス「TOP LOT」のアドバイザーを務める真贋鑑定のプロであり、ワイン業界の第一人者である堀賢一氏に、偽物ワインの現状とその見極め方について伺った。
被害総額120億円! 史上最悪の偽造ワイン犯
偽造ワインといえば、米国で初めて偽造ワイン犯としてとらえられたルディ・クルニアワンの一件が記憶に新しい。その一連の偽造事件は、「Sour Grape」というドキュメンタリー映画にもなっている。主人公は、2000年代初めからニューヨークのワインオークションに現れたインドネシア人のルディ。次々に高額ワインを落札・出品を繰り返し、有名ワインコレクターとしてワイン社交界でも名を馳せていた。
偽造の疑いが発覚したのは、ブルゴーニュの生産者ドメーヌ・ポンソのワインがきっかけだ。ポンソの「クロ・サン・ドニ」1945年~71年のヴァーティカルロットを出品したルディに対し、ポンソの当主が「1982年がファースト・ヴィンテージで、出品されたヴィンテージは存在しない」と申告。その後、ルディのワインを落札したアメリカの大富豪が、ワインの真贋に対して訴えを起こし、FBIの調査により偽造が発覚した。
ルディの偽造ワインの被害総額は120億円といわれ、今なお偽造ワインは回収しきれずに市場に出回っているといわれる。しかも偽造ワインの中身には、チリやカリフォルニアワインにポートワインをブレンドしたり、ハーブや醤油で味を調え、澱に見せかけコーヒーの粉を封入したりと、工夫を凝らして本物に似せていたというから驚きだ。
ちなみにルディは2014年にアメリカで懲役10年の判決を受けたが、2020年に釈放され、母国のインドネシアに戻ったという。現在は、富裕層のワインコレクターから引き出した本物の高級ワインと、自身の偽造ワインを飲み比べるイベントを開催(しかも偽造ワインを好むゲストが多いのだとか)しているというから、そのたわしの心臓には驚かされる。