オリンピックをはじめとした国際的スポーツ大会のイタリア代表ユニフォームを幾度となくデザインし、著名なプロアスリートをスポンサードするなど、スポーツをこよなく愛し、この半世紀を通してスポーツ界と密接にかかわってきたジョルジオ・アルマーニ。サッカーイタリア代表の公式スーツを手がけるなど、特にサッカーは情熱を注いできたスポーツのひとつだが、そうした関係から親交を築いてきたのがサッカー選手の三浦知良だ。
1980年公開の『アメリカン・ジゴロ』は、ジョルジオ アルマーニが初めて公式に衣装を担当したハリウッド映画。主人公を演じるリチャード・ギアが着こなすスーツが話題となり、アルマーニの名を世界に知らしめることとなった。対して1993年にJリーグが開幕し、初年度の最優秀選手に選ばれるなど、一躍スター選手となった三浦知良は、プライベートでさっそうとジョルジオ アルマーニのスーツを着用。日本においてアルマーニの人気に火をつけた立役者のひとりとなった。「普段の服装はジャージーかスーツ」というほどスーツを愛する三浦は、どのようにアルマーニのスーツと出合ったのだろうか。
ディテールへの緻密なこだわり
「リアルタイムではないのですが、やはり『アメリカン・ジゴロ』がジョルジオ アルマーニを知ったきっかけでした。あの映画でリチャード・ギアが着ているスーツが格好いいと聞き、観てみたらやっぱりいいなと。特にスーツを着て、オープンカーでハイウェイを走るシーンが大好きになりました。まだ20代でしたが、それからジャケットやスーツを毎シーズン、アルマーニで買わせてもらうようになったんです。以来30代になるまで、途切れることなく購入させてもらいました。イタリアでプレイしていた時代はアルマーニさんとも懇意にさせていただき、毎シーズンのランウェイショーに招待されたり、ご自宅での食事会に招いていただくこともありました。ユニフォームを脱いだら毎日のようにアルマーニのスーツを着ていたので、僕にとってジョルジオ アルマーニの服は生活の一部といっても過言ではない存在だったのです」
ジョルジオ アルマーニに魅了され、若いころからそのスーツに袖を通してきた三浦。スーツ歴はすでに30年以上になるが、長く着てきたからこそわかるようになったこともあるという。それはディテールへのこだわりであり、サッカーにも通じるそうだ。
「ずっとスーツを着てきて少しずつ分かるようになったのは、数センチ、数ミリ単位の差で見え方がまったく変わる服ということです。袖や丈の長さはもちろん、靴の高さが少し変わるだけでも違う服に見えることすらある。そんな服はスーツだけであり、その奥深さや面白さが年齢を重ねることでわかってきたように思います。アルマーニさんはその奥深い世界をずっと探求されてこられたのでしょう。
そんな数センチ単位のこだわりは、実はサッカーにもあります。普通に観戦しているだけではなかなかわからないと思うのですが、サッカーは数センチ単位、数秒単位で11人が連動し合い、緻密に動いているスポーツです。あれだけ広いフィールドのなかで小さなボールを奪い合い、ゴールに向かっていくのですが、ほとんど得点に結びつきません。90分走り続けても1点入ればいいほうであり、ひとりがボールに絡む時間は1分にも満たない。サッカーは人生と同じで失敗が多く、いわばコスパがわるいスポーツなのです。だからこそがむしゃらに走るだけでなく、全員が連動した緻密な動きが大切になってくる。オフェンスはどちらかというとその場の感性や発想などのクリエイティブが問われるのですが、ディフェンスに関しては、後方からの声かけで前方を動かすなど、かなり細かい動きをチーム全体でしています。そしてそれができるチームが強いのです」
愛すべきことへの変わらぬ思い
ファッションもスポーツも、なにより研ぎ澄まされた感性やセンスがものをいう世界と思われがちである。それらはもちろん大切だが、緻密な計算に裏打ちされているからこそ、大きな成果につながるもの。つまりファッションであれ、スポーツであれ、プロフェッショナルの仕事とは計算されたディテールの集積にほかならないのだ。そんなプロの世界で長年成果を出し続けてきたアルマーニと三浦は、ベテランの域に達してなお、どのようにプロとしての高い意識を保っているのだろうか。「今もサッカーをもっとうまくなりたいと思っているし、うまくなれると信じてやっています。その気持ちは10代からまったく変わっていないのです。それと試合に出たいという意欲も変わりません。そのためには厳しい練習を日々こなさねばならず、またこなせなければピッチに立つ権利はないと、肝に銘じて取り組んでいます。とにかく試合に出て、ゴールを決め、勝ちたい。今の僕にはそれがすべてであり、その一心のみ。ほかにプロとしてサッカーを続ける特別な理由はないのです。
現実として、試合に出られないことも多くなっており、そのたびに悔しい思いもしています。ブラジルでプロ選手としてデビューした19歳のころも試合に出られないことが多かったのですが、当時抱いた悔しさはいまも変わりません。肉体的には衰えても、そうした気持ちは衰えていないと感じるのです。そして人間は年齢に関係なく、気持ち次第でいくらでも改善できるし、成長できると思うのです」
サッカーへの変わらぬピュアな思い──。それこそが三浦のプロフェッショナルとしての意識の根幹となっているに違いない。そんな三浦はイタリア時代、オープン前のブティックのショーウィンドウをジョルジオ・アルマーニ本人が自ら整えている姿を偶然目撃し、世界トップのデザイナーとなっても労を惜しまず、こだわりを貫く姿勢に感銘を受けたという。そのエピソードからは、三浦同様“マエストロ”となっても変わらない、アルマーニのファッションへの尽きない情熱をうかがい知ることができるのだ。そして、そうした三浦のサッカーへの強い決意は、次のような自己統制術にも支えられているのである。
人生を豊かにするストイックさの源
「これまでさまざまなチームでプレイしてきましたが、すべて自分で決断してきたこと。その結果も自分の責任であり、とにかく全力でやるしかないと思ってやってきました。そもそも環境や周囲からの意見は、自分でコントロールできるものではありません。自分でコントロールできるのは、当たり前ですが自分自身だけです。だからこそ、他人の考えよりも、自分がどう考え、何をしたいか、そして全力で取り組めるか。そこに集中するように心がけています。自分がやりたいことに全力で取り組めれば、その結果がどうあれ、後悔することもないからです。そして毎日のトレーニングといった普段の積み重ねが自信へとつながり、自分自身をコントロールできる精神状態を保ってくれると信じています。僕はサッカーを続けているだけで批判を受けることもありますが、人が人を批判するのは自由です。でも、僕にはサッカーをやる理由があり、目標があるからやっている。だから人の言葉を気にするよりも、毎日小さなことを積み重ねていくだけなのです」
周囲に惑わされることなく、自分が何をしたいかを見極める。そして自分を律し、やるべきことへ一心に打ち込む。その実直なまでの姿勢は、トレンドや時流に流されることなく、半世紀もの間、誰にもまねできない独創的な世界観を築き上げてきた、アルマーニにも重なるのだ。それは目標を成し遂げ、後悔のない人生を送るために、ふたりが日々実践してきたストイックな生き様なのである。
「どんなに努力しても、人生は結果が出ないことのほうが多いですが、努力したことは決して無駄にはならないと思っています。僕らは試合内容がすべてであり、出場すらできないこともある。ですが、それが全身全霊をかけて取り組んだ結果ならば、後悔の余地はなく、むしろ気持ちを豊かにしてくれるのです。もちろん結果が出ないことへの悔しさはあるし、キツさも感じますが、それらは自分が生きていると実感させてもくれる。だから俯瞰してみると、すべてが人生においてはプラスとなっていくと思えるのです」
今年で90歳を迎えたジョルジオ・アルマーニは、ミラノコレクションに参加する最年長デザイナーとして今もランウェイに立ち、群雄割拠のファッション界でトップクリエイターとして活躍している。そして現在57歳の三浦知良は、日々の厳しいトレーニングをこなしながら、国内最年長のプロサッカー選手としてハードなプロのフィールドを全力で駆け続けている。こうした年齢を言い訳にしない現役への飽くなきこだわりこそが、両者のストイックな生き様の源泉であり、充実した人生を送るための秘訣に違いない。
ジョルジオ アルマーニ ジャパン
https://www.armani.com/
タイドアップ:スーツ¥957,000(メイド トゥ メジャー)、シャツ¥69,300、ネクタイ¥29,700〈すべてジョルジオ アルマーニ〉
靴スタイリスト私物
プリントシャツ:ジャケット¥396,000、パンツ¥217,800、シャツ¥297,000[9月6日オープン表参道店限定品]〈すべてジョルジオ アルマーニ〉
三浦知良
みうらかずよし/サッカー選手。1967年、静岡県生まれ。小学生よりサッカーを始め、高校時代に単身ブラジルへ渡り、1982年サンパウロ州のサッカークラブであるCAジュベントスのユースに所属。1986年には同州のサントスFCとプロ契約を結び、念願のプロサッカー選手となる。1990年までブラジルでプレイし、帰国後に読売クラブ(のちのヴェルディ川崎)に所属。以降、国内のいくつかのチームに加え、イタリアやクロアチア、オーストラリア、ポルトガルのチームでもプレイし、国際的に活躍。現在は横浜FCに籍を置きながら、JFL所属のアトレチコ鈴鹿クラブに期限付き移籍中であり、国内最年長プロサッカー選手として、そしてJリーグ発足当時よりプレイする唯一の現役選手として活躍中。
Forbes JAPAN × GIORGIO ARMANI特設サイト「THE RESOLUTE」