5月30日、創立20周年記念式典が東京大学本郷キャンパスで開催された。
UTECは、創立20周年を記念し、藤井輝夫・東京大学総長からのあいさつに始まり、代表・郷治友孝からの基調講演、国内外のベンチャーキャピタル(以下、VC)、アカデミア、機関投資家とのパネルディスカッション、投資先ピッチコンテストを含む式典を開催した。
そのなかのパネルディスカッション「日本のベンチャーキャピタル業界におけるUTEC」では、インキュベイトファンド代表パートナーの赤浦徹、ニッセイアセットマネジメント執行役員の大西かおるの両氏が登壇。UTEC茂木敬司取締役会長をモデレーターに「ディープテック投資」の可能性について熱い意見が交わされた。
茂木敬司(以下、茂木):まず、お二方が、なぜベンチャー投資に関心をもたれたかをお伺いします。
大西かおる(以下、大西):ディープテックのベンチャーは新しい技術、アイデアの実現に取り組んでいます。
例えば、治療法のない疾患に対する医薬品やQOLを劇的に向上させるヘルスケア領域は、公益性が高い、我々生命保険会社グループのビジネスとも親和性があります。人々の生活をより豊かなものにしたり、世の中の課題解決につながる意義の高い投資であることもベンチャー投資を続けてきた理由です。
一方、我々は保険契約者に確実に保険金を支払う責任があります。そのため、リスクの高いベンチャー投資においてはリターンの蓋然性が高いファンドの選別と、ペイシェントマネー、つまりリターンが出るまで忍耐強く待つ視点が必要です。UTEC1号、2号ファンドに投資した際も長期的なリターンを期待して投資を続けてきました。
赤浦徹(以下、赤浦):僕は起業前にVCのジャフコにいました。投資委員会、取締役会などでの合意形成を経て投資先を決めるのですが、稟議を回し説得するのが大変で……。ここに投資したいという思いを一生懸命説明しても、「それはもうかるのか」とよく言われたものです。入社1年目には独立計画を立て始めていました。
茂木:ビジネスにはロマンとそろばん、つまり夢とともに現実的な数字が必要だといわれますね。
赤浦:僕の場合、ロマンしかなくて(笑)。でも、意外にもうかったんですよ。UTEC代表の郷治さんが通産省(現・経済産業省)時代に起草にかかわった投資事業有限責任組合法(1998年)のおかげでファンドをつくりやすくなったのもありがたかった。その恩恵を受け、僕らのような独立系VCも増えてきました。
茂木:リスクもありますが、ロマンが大きいほどリターンも大きいと思います。しかしベンチャーが生み出そうとしているのは前例がないものも多く、UTECも設立当初は実績がないわけですが、大西さんらはそんなUTEC1号、2号ファンドへの出資を決めたわけですね。
大西:もともと、我々のプライベートエクイティへの投資はベンチャーファンドへの投資からスタートしたことや、ディープテックの黎明期で、とにかく投資してみようという土壌もあったんだと思います。投資対象が大学発ベンチャーということも大きな後押しでした。
リターンが出るまでどうやって「我慢」したか
茂木:先ほどベンチャー投資に必要な資金は「ペイシェントマネー」であるとおっしゃいましたが、ペイシェント期をどう乗り越えたのですか。大西:少しずつ投資してみて、成功案件についてはいい投資ができたと周知し、ベンチャー投資の良さを伝えるように努めました。
リターンが出るまで時間はかかりますが、ホームラン案件の発生に加え、UTECさんがLPAC(投資家アドバイザリー委員会)の開催などを通じ積極的にその時々の状況を報告していただいた安心感と、信頼関係もあり、乗り越えられたと思います。
茂木:赤浦さんはどんな基準で投資先を決めるんですか?
赤浦:僕は創業期に特化しビジネスをつくるところにコミットしたいんです。だから、投資の基準は自分自身がやりたいかどうかですね。
世の中のあるべき姿について自分なりの考えがあります。それが正しいかたちかどうかはわかりませんが、ベンチャーイコール冒険です。まず一件投資し、かたちにして、次へ……。そのくり返しでやってきました。
茂木: 代表例がサイボウズであり、Sansanですね。
赤浦:独立系VCは増えていますが、長年の課題は、機関投資家から出資を受けることの難しさです。日本全体の課題と言ってもいい。独立系VCでありながら1号から継続して機関投資家から資金を預かっているUTECさんは珍しい存在です。
茂木:UTECに対する期待についてお聞かせください。
大西:日本が人口減少と国力低下に直面するなか、技術とイノベーションが重要な役割を果たすと考えており、日本発の世界標準の技術が生み出されることを期待しています。
UTECさんはすでにグローバル展開を始めていますが、大学発の技術や知財など日本のシーズへの投資を通じ人類の課題解決に資するような次のグローバル企業を育てることを期待しています。
赤浦:IT時代の勝者は決まり、残念ながら日本は負けました。次のパナソニック、ソニーのような世界を代表する企業はディープテック分野から生まれると思います。ディープテックの事業化や経営チームの組成には、独特のノウハウが必要です。その点、UTECさんには20年の蓄積がある。
今、日本ベンチャーキャピタル協会の会長が郷治さん、企画部長がUTEC取締役COOの坂本(教晃)さんですから、おふたりにそのノウハウを僕らへ還元していただきたいですね。
茂木:UTECはこの20年、すべてのステークホルダーの皆様のおかげで、VC業界で存在感を高め、ディープテック投資のあり方に一石を投じたとも思います。これからも皆様の支援を受けながら、さらに成長し続けてまいりたいと思います。
https://www.ut-ec.co.jp/20th/