「放し飼い和豚のおいしさを」手製豚舎でブタを育てる畜産パイオニア

「一頭一頭愛を込めて」健康に育つ放牧養豚

日本において豚の放牧はまだあまり普及していない。有方さんいわく、庭先で小規模に豚を放牧していたり、ペットとして放牧していたりする人はいるものの、商売として成り立たせている事業者は限られているのだという。豚をのびのび走らせるためには、頭数を厳選する必要があり、放牧養豚で大量生産することはなかなか難しい。



「豚へのストレスを極限まで排除した放牧養豚には、いくつかのメリットがあります。まず、放牧で育った豚はそうでない豚より運動量が多いため、免疫能力が向上し、病気になりにくい。その結果、不要な抗生物質の添加や注射の必要が減り、安心で美味しい豚肉を作ることができます。また、豚が自由に走り回っているため筋線がしっかりしており、旨味が凝縮した食べ応えのある豚肉になるんです」

単に放牧すれば良い、わけでもないそうで、日々の観察や丁寧な取り扱い、良質な飼料や水の給与も必要不可欠である。

有方さんは、広大な山を切り開いて作った放牧場で豚を育てているだけでなく、飼料も一から作っている。宮崎県串間市の農園から譲り受けたサツマイモを中心に、トウモロコシ、大豆粕、焼酎粕、ミネラル類を混ぜ合わせた自家配合飼料は、肉の脂質の甘みとコクを増しているのだ。

挑戦を受け入れてくれた町、木城町

留学を終え宮崎大学へ復学した有方さんは、アニマルウェルフェアにも配慮した放牧養豚をテーマに宮崎大学ビジネスプランコンテストに挑戦。学術だけでなく、現場での経験も反映された有方さんのプランは、グランプリ、審査員特別賞、協賛企業賞を受賞した。豚と人が上手く共存していける放牧養豚を切り口に、農業の新しいモデルを作り出した点が評価された。コンテストに出場したことで、ビジネスの視点で相談できる大学の先生や関係者と出会い、後押ししてくれる存在もあったことから、そのプランを基に起業を決めた。



起業に向けて動き出してからも、簡単な道のりではなかった。いくつか候補の場所があったものの、放牧養豚と伝えると、なかなか首を縦に振ってくれない。

「類例のない養豚法なんてうまくいきっこない、と思われていたのかもしれません。そんな中、僕の挑戦を応援してくれたのが木城町役場の担当の方で。自由にやってごらんという町の雰囲気をどこかに感じながら、提出書類の作成などにも随分力を貸していただきました。その方との出会いもあり、木城町でやろうと決めました。今では、うちで作った豚肉をふるさと納税の返礼品にしていただいていて、この町には何かと協力や応援をしていただいています。ありがたいですね」

2020年に、放牧養豚で認定新規就農者となり「Pioneer Pork」を創業。放牧養豚の魅力を広め、日本の農業に革命を起こす先駆者になりたいとの思いからこの名前を付けた。
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文=いちたになな+Qurumu

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