欧州

2024.07.01 09:30

「ジャベリン被弾でも生存」とロシアが誇ったT-90M戦車、ネットのツッコミで嘘と欠陥バレる

ロシア軍のT-90M戦車。2020年6月、モスクワ(Andrey Kryuchenko / Shutterstock.com)

戦闘中のロシア軍戦車の内部を映した珍しい動画が共有された。ロシア側によれば、T-90M戦車がウクライナ軍のジャベリン対戦車ミサイルによる攻撃を受けた際の様子だとされる。激しい爆発が起こるが、乗員は戦闘を継続し、任務を完了して帰還できたという。

これは、プーチンの称する「世界最高の戦車」の目を見張る成功だったのだろうか。どうもそうではないようだ。軍事アナリストたちはこの映像について、ロシア側の説明とまったく異なる解釈をしている。爆発はウクライナ側の攻撃によるものではなく、戦車に搭載されていた弾薬の欠陥によるものだというのだ。

「ジャベリンに耐えた」?

T-90M「プラリーフ」(ロシア語で「ブレークスルー」の意味)はロシアの最新鋭戦車である。ロシア軍で現在就役している戦車は古いT-80戦車やT-72戦車、さらに一部は1960年代にさかのぼるT-62戦車を再整備したものが大部分を占めるが、T-90Mも少数配備されている。西側製戦車と同等の熱線映像装置やレーザー測距儀、弾道コンピューターを搭載し、ロシアの戦車のなかで最も優れた装甲や砲を装備する。

一方でT-90Mについては、被弾すると砲塔が制御不能な旋回を始めるという不幸な欠陥も映像で数多く確認されている。新たに開発された高速旋回機構の不具合のせいとみられる。

T-90Mの内部を見られる機会はめったになく、乗員がGoProのようなカメラで撮影したらしいこの動画は興味深いものになっている。オリジナルの動画はテレグラムの「出来事に照らして」(ブ・スベーチェ・サブィーチイ)というチャンネルが6月12日に投稿した。その説明によると、この戦車はウクライナ北東部ハルキウ方面に侵攻した北部集団軍の「黒い翼」戦車大隊に所属し、「敵の射撃地点を破壊することに成功した」という。

動画の前半では、砲塔上の12.7mmコルド重機関銃が車内から操作され、遠方の建物の目標と交戦する音が聞こえる。車長の熱線映像装置にその様子が映っている。動画の最後のほうで、乗員のひとりが驚き声を上げたあと、撮影者の右側で炎が上がる。「消火、消火」という声が聞こえる。消火装置が作動した形跡はないが、数秒後に炎は鎮まったようだ。

ロシアの言説空間では次のように説明されている。「この戦車兵たちは集合住宅から発射されたFGM-148ジャベリンを検知し【略】、『カーテン』(シュトーラ)システムを使用して成功裏に射撃地点を離れた。映像から判断すると、ジャベリンは(戦車の)屋根部分で爆発したが、深刻な損傷を引き起こせなかった。戦車兵たちはすぐに火を消し、戦闘から離脱した」

もっともらしい話に聞こえるかもしれない。T-90Mはたしかに、自車がレーザーで照射されると検出して警告するシュトーラ防護システムを備えるし、煙幕を張って戦車を守る発煙擲弾(てきだん)発射装置も搭載している。また、ジャベリンは、車両の屋根など上部をたたくトップアタックを行える兵器だ。

だが、この説明は実際はつじつまが合わない。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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