火炎の正体は
米国からウクライナに供与されているジャベリンは赤外線誘導ミサイルであり、熱源を感知する高性能なシーカーで目標をロックオンする。つまり、ジャベリンは米国製のヘルファイア空対地ミサイルのようなレーザー誘導ミサイルではなく、レーザーに反応するシュトーラの検知システムを作動させることはない。T-90Mの発煙擲弾は周囲に熱く濃い煙を充満させることで、視覚によっても熱源を頼りにしても自車を見つけられないようにする。ところが、動画内の熱線映像装置を見る限り、外の視界は影響を受けておらず、発煙擲弾は使われなかった可能性がある。
決定的な情報は、動画の終わりごろ(6:30)に主砲の125mm滑腔砲が砲撃を行った際の衝撃だ。砲塔内の火災は、その数秒後、砲尾が開いたときに発生していると見受けられる。
オンラインのコメンテーターたちは、実際に何が起こっていたのかを即座に理解した。
「戦車は被弾していない。火災は後炎(こうえん)によるものだ」と、X(旧ツイッター)でCopiusPrimeというユーザーは指摘している。
米ジョージア州フォートベニングにある米陸軍機甲学校で砲術を教えるウィル・ダーネルは、同校の専門誌「アーマー」で後炎(フレアバック)をこう解説している。「後炎とは簡単に言えば、砲弾が発射されたあと、(薬室から)薬莢底部を排出する際に、燃え残った発射薬が酸素と混ざり、尾栓から火炎が発生する現象だ」
戦車砲が砲弾を撃ち出す際には通常、発射薬が爆発で燃え尽きて砲弾を砲身から前方へ押し出す。しかし、発射薬の一部しか燃えないこともあり、その場合、非常に高温の物質が残り、酸素があるだけで燃え始める。この火炎は、次の砲弾を装填するために砲尾が開かれたときに乗員室に噴き出すことがある。もっとも、見た目は激しくても、必ずしも大きな損害を引き起こすとは限らない。
筆者が取材したTrostというアナリストは「この火災は砲尾に残っていた発射薬によるものです」と断言し、発射薬が古かったか、保管状態が悪かったのではないかと推測した。
危険なのは閃光や火炎自体よりも、それにともなって発生するガスだ。
「大量のガスが乗員室に吹き込み、その結果、乗員が中毒を起こすおそれがあります」とTrostは説明する。「(ガスというのは)正確に言えば一酸化炭素です」
この問題は珍しいものではなく、ロシアが2022年まで毎年開催していた戦車バイアスロンでも起こっている。2020年大会に出場した中国の選手は、欠陥のある(これは中国製の)砲弾を射撃した結果、戦車内で一酸化炭素中毒になり、意識を失ったと報じられている。
それほど深刻なものではないが、米国製のM1エイブラムス戦車の内部で発生した後炎も、YouTubeに投稿されている動画で見ることができる。