アジア

2024.07.02 11:00

中露朝の国境を流れ日本海にそそぐ「豆満江」の開放、3カ国の思惑とは

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最近、国際戦略地政学の専門家たちに衝撃を与える出来事があった。日本海にほど近い、とある遠隔地の水域で中国船舶が航行を始める可能性があると報じられたのだ。

モスクワ・タイムズによれば、クレムリンが提案したロシア・中国・北朝鮮の3カ国合意の締結は近いという。渦中の地域と豆満江(とまんこう/トマンガン)の位置を示した地図をご覧いただきたい。

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ご覧の通り、全長約500キロメートルの国際河川である豆満江は、中国と北朝鮮の国境として北へと蛇行したのち、東に折れる。そして、日本海に注ぐ直前に中国から離れ、ロシアと北朝鮮の国境となる。

ロシア・中国・北朝鮮の国境が接し、そのあと豆満江がロシア・北朝鮮の国境に変わるのは、太平洋岸(河口)から約16キロメートル上流の地点だ。つまり、中国は現在、この地域において海へのアクセスを持っていないが、プーチン大統領の発言を信用するなら、今後は豆満江を介した海へのアクセスが可能になる。

この動きは、何を意味するのだろうか? 戦略地政学の観点から注目される理由とは?

本題に入る前に、知っておいてほしいことがある。怖いもの知らずの筆者は2009年、豆満江と、ロシア・中国・北朝鮮が接する地点を訪れ、2本のコラムを執筆した。そこは酷寒で殺伐とした、見捨てられたも同然の地域で、訪問時の気温は氷点下20度ほどだった。

1本目のコラムは、同地域の商業、歴史、民族構成、戦略的重要性に関するものだ。そして、訪問を終えたあとに執筆した2本目のコラムでは、凍りついた川を徒歩で渡り、北朝鮮に渡った体験を綴った。

筆者は、カレントTV(当時はアル・ゴア元米副大統領が携わっていた)で勤務していた2人の韓国系米国人ジャーナリストの足跡をたどった。2人のジャーナリストは逮捕され、首都の平壌に移送され拘束されたが、のちにビル・クリントン元米大統領の訪朝を受けて解放された。第二次世界大戦から現在に至るまで、この地域が世界的に注目されたのは、この時だけだった。

筆者が訪問したあと、明らかに状況は変わった。ロシア側は今でも、国境検問所周辺に集落が1つある以外はほぼ無人地帯だが、中国側では、開発と商取引が活発化している。北朝鮮側も、中国が事業展開するエリアでは開発が進んでいる。とりわけ北朝鮮領内の沿岸部では、建設と運営をほぼ中国が担う羅津(ラジン)港が、中国製品を世界に輸出する窓口となっている。

金正恩総書記体制の北朝鮮領内では、中国製品はすべて豆満江にかかる橋を渡り、羅津港に陸上輸送されている。したがって、中国船舶が豆満江を航行し、直接太平洋に出るようになれば、羅津港は不要になるだろう。これにより、北朝鮮は巨額の損失を被るはずだ。

加えて、大型船舶による豆満江の航行を実現するには、大規模な浚渫(しゅんせつ)工事と拡幅工事が必要だ。中国の海へのアクセスを回復させるというプーチンの提案は、実現不可能な妄想に思える。
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翻訳=的場知之/ガリレオ

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