人より利益を優先
34ページにわたる判決書類によると、イタリア警察は3月から4月にかけて、ディオールの皮革製品の製造を請け負うペレテリア・エリザベッタ・ヤン有限会社とダヴィデ・アルベルタリオ・ミラノ有限会社の2社を査察したという。これらの調査で、次のようなことがわかった。・1日24時間の労働力を確保するため、工場で寝ることを余儀なくされた労働者がいた
・電力消費量のデータマッピングは「休日を含めた昼夜にわたる間断ない生産サイクル」を示していた
・労働者がより迅速に作業できるようにするため、製造設備の安全装置が強制的に取り外されていた
・多くの労働者はイタリアに不法入国しており、正規の契約を結んでいなかった
このような非倫理的な行為によって、ある製造業者は「イタリア製」のディオール・ブランドのハンドバッグ(ディオールの製品コード「PO212YKY」)を53ユーロ(約9000円)でディオールに供給し、ディオールはそれを48倍もの2700ユーロ(約46万5000円)という価格で販売していた。
小規模製造業者と称されているが、過去1年間にディオールはペレテリア・エリザベッタ・ヤンから75万2881ユーロ(約1億3000万円)、ダヴィデ・アルベルタリオから73万7623ユーロ(約1億2700万円)、合計で150万ユーロ(約2億6000万円)近い額の請求を受けている。48倍の小売価格に換算すると7000万ユーロ(約120億円)以上に相当する。
ミラノ裁判所のファビオ・ロア裁判長は「残念ながら事業主は、ある商品やサービスがなぜそんなに安いのかということを、通常は疑問に思いません。単に利益を最大化する機会を掴もうとするだけなのです。普通の人は、あまりに安い値段だと警戒するものですが」と、ロイターの取材に語っている。
同裁判所は、イタリアのサプライチェーンに対する管理を改善するためのガイドラインを盛り込んだ提案書を、イタリアファッション協会をはじめとする各団体に送付した。
経営コンサルティング会社Bain(ベイン)の推定によると、イタリアは全世界における皮革製品の製造の50から55%を占めているという。そのため、人権侵害を撲滅し、倫理的に調達された製品を世界の高級品市場に提供するためには、イタリアが大きく関わってくる。
「主な問題は、明らかに人々が酷使されているということです。労働者の健康、安全、労働時間、賃金には、労働法を適用しなければなりません。しかし、もう1つ、大きな問題があります。それは、法律を守る企業が市場から追い出される不公正な競争です」。
「労働者搾取をなんとか根絶することができれば、利益は減少しますが、企業間の合法的な競争は実現できます」と、ロア裁判長は続けている。