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2024.07.07 11:00

大谷翔平の10年7億ドルも握る。投資家ベーリーの帝国の礎とは

大谷翔平でもうける仕組み

ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイが、保険会社のガイコから多額の資金を得ているように、トッド・ベーリーの帝国に資金を供給するのも保険会社だ。カンザス州トピカに本社を置く年金保険専門の保険会社セキュリティ・ベネフィット・ライフは現在、約520億ドルの資産を運用しており、23年の営業利益は50%増の11億ドルだった。ベーリーは独立に際して、グッゲンハイムからこの保険会社の株式を取得した。

大半の保険会社は保険契約者が支払う保険料を公募債に投資することで、自社の長期負債と保有する証券(資産)のバランスを取ろうとする。これとは対照的に、セキュリティ・ベネフィット・ライフの資産の大部分は、100社を超えるベーリーのポートフォリオ企業への貸出金やリース債券、そのほかの仕組み債のかたちを取っている。証券取引委員会(SEC)に提出された開示情報によると、22年末時点のセキュリティ・ベネフィット・ライフの資産480億ドルのうち、少なくとも210億ドルは「関連当事者」に投資されている。

例えば、3億3400万ドルを投資しているアメリカン・メディア・プロダクションズは、ドジャースの試合を放送する地方スポーツネットワーク、スポーツ ネットLAを運営している。13億ドルを投じているケイン・インターナショナルは、エルドリッジが共同所有するロンドンの不動産会社で、ビバリー・ヒルトンやボストンのラッフルズ・ホテルなど160億ドルの資産を保有している。セキュリティ・ベネフィット・ライフの年金保険の届け出資料には、全部で1500以上の多彩な事業体が30ページ以上にわたって記載されている。

当然ながら年間何億ドルもの会社間手数料が発生ることになる。だが、“エルドリッジファミリー”のなかですべてまかなえるのに、投資銀行や経営コンサルタントを雇う必要があるだろうか。セキュリティ・ベネフィット・ライフは18〜22年、投資戦略や資産組成、新商品開発などに関連して5億5000万ドル以上の手数料をエルドリッジに支払っている。エルドリッジは、23年にはセキュリティ・ベネフィット・ライフから3億5000万ドルの配当金を得た。「私には利率がしっかり固定された長期負債があるのです」

ベーリーは自身の資産購入に資金を提供する年金保険を指してそう言う。

保険会社を資金源とするベーリーの戦略の背後にある計算が最も革新的なのは、プロスポーツへの投資だ。子ども時代から野球ファンだという彼は、11年6月にドジャースが破産を申請した際にこの球団に興味をもち始め、グッゲンハイムに在籍中の12年、ウォルターと一緒にスポーツスチームでは過去最高額となる20億ドルで球団を買収。個人的に20%を、エルドリッジを通じてさらに7%のもち分を手に入れた。

ふたりはすぐに資金を投入。最初の夏にはスター選手のエイドリアン・ゴンザレスやハンリー・ラミレスなどをトレードで獲得した。多くのファンを球場に集客し、より多くのファンにテレビ中継を視聴してもらうためだった。ドジャースは13年に驚異の84億ドルで25年間の放映権をタイム・ワーナー・ケーブルに売却し、同社のケーブルサービスのもとで試合を放送するスポーツネットLAを設立した。
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文=マニート・アフージャ & ハンク・タッカー 写真=グエリン・ブラスク 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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