過去10年、世界的なパンデミック、米中新冷戦、ウクライナ戦争、地球温暖化の深刻化など、破滅につながりかねない重苦しい出来事が続いている。他方でAIやネットワーク社会の飛躍的発展、ダイバーシティの進展など、前向きに歴史を画する変化もある。けれども、残念ながら、総じて暗い兆候が主流と言わざるをえない。
人類は自ら、民主主義と自由資本主義の危機、全体主義的国家やポピュリズムの台頭、国論の分断、人々の経済格差の拡大等を招いている。
私は本誌創刊号で、「失われた20年」は飛躍に備えた準備期間であり、これを生かすためには、Liberté(自由)、Egalité(平等)、Fraternité(共済)がキーワードになるという趣旨の雑文をものした。7月を前にフランス革命を想起したのだった。その後10年の間、世界はこれらに逆行してきた。
日本国内でも経済格差が広がり、今や相対的所得格差も貧困率も先進国のなかでトップクラスである。政治への不信感増大、あるべき官僚パワーの減退等、公的分野のガバナンスの弱体化も進む。
SNSの普及が、言論の多様化とともに不当に表現されるリスクを拡大し、窮屈な社会を醸成している。
さらに急速な円安は、あらためて国力の衰えを見せつけているようだ。金利の上昇も吉と出るか凶と出るか判断し難い。この10年の主だった経済指標の変化をおさらいしておこう。
国の長期債務額770兆円→1102兆円、貿易収支+11兆円→+3.5兆円、GDP530兆円→560兆円、円ドル為替102円→155円、長期金利0.57%→1.01%。一見して、収入があまり増えず借金ばかり増え、円の価値が暴落している。金利上昇は国の利払い負担を著増させる。やはり衰退の一途なのか。
そこで別の数字をチェックしてみよう。経常収支2.4兆円→25.3兆円、個人金融資産1645兆円→2141兆円、企業内部留保350兆円→560兆円。海外投資やインバウンドで稼ぎ、企業も個人も内福になっている。
つまり日本の構造がガラッと変わったのである。これからの10年は、上記の弱点を強さに転じ、強みを一段と磨くことで国力の再浮揚を狙っていくべきだ。テーマは多岐にわたるが、あえてポイントを絞ると、対米、対中関係への心構えと企業行動の一段の活性化だと思う。