それに最初に気づいたのは、2022年夏に初めて訪ねたモンゴル国での食の体験からだった。当地の料理は、すでに何度か訪ねていた中国内蒙古自治区や都内で食べたモンゴル料理とは少し違っていたからである。
そんなこともあって、ここ数年、筆者は都内を中心にいくつかのモンゴル料理店を訪ね歩いていた。以下はその店名だ。
ウランバートル(墨田区両国3-22-11 2F)
IKH MONGOL(北区田端新町1-20-4)
アラル(北区赤羽西1-7-1 B1F)
シリンゴル(文京区千石4-11-9)
青空(渋谷区幡ヶ谷2-7-9)
馬記蒙古肉餅(新宿区高田馬場2-14-7 新東ビル5F)
内蒙人家(新宿区西早稲田3-28-4)
モリンホール(新宿区歌舞伎町2-41-3 レオ寿ビル2F)
内蒙古飯店(埼玉県川口市西川口1-9-14 3F)
スヨリト(新宿区矢来町82番地)
モンゴル焼売(台東区東上野1-19-2)※最近オーナーが変わり、店名は「草原の家」になった
このうち「ウランバートル」から「アラル」までの3店は、モンゴル国の首都ウランバートル出身の人たちの店なので、「ウランバートル系」と呼ぶことにした。また、それ以降の8店は、中国では少数民族とされる内蒙古自治区出身の人たちの店なので「内蒙古系」としたい。
これらの店を訪ねて気がついたのは、ウランバートル系か内蒙古系かによる違いもそうだが、オーナーや調理人の出身地や民族特性、出店時期などによって、料理だけではなく、店の雰囲気まで異なっていることである。それはどういうことなのか、なぜそうなるのかについて、今回は考察してみたい。
味つけあっさりのウランバートル系
まず、ウランバートル系の店を紹介しよう。両国にある「ウランバートル」は、モンゴル国出身の元相撲力士、白馬さんの店だ。メニューは都内の内蒙古系オーナーの店と見た目は似ているが、味つけの違いが印象に残った。
というのも、内蒙古系は明らかに中国の食文化の影響を強く受けていて、あくまで比較の話だが、味にメリハリがある。トウガラシやクミンなどの香辛料を多用しているからだろう。
もともとモンゴル料理は、塩以外の調味料はあまり使わない素朴な味わいが基本なので、中華料理ほど味をつくりこもうとしない。「ウランバートル」で供される料理も内蒙古系ではなく、そんなモンゴル料理の本来の味わいに近い。
日本で暮らす若いモンゴル人に人気なのが、田端の「IKH MONGOL」だ。この店では、モンゴル人男性が大好きという現地風焼きうどんの「ツォイバン(цуйван)」と羊のスープを注文したが、実は、ツォイバンは都内の内蒙古系の店ではあまり見かけないメニューである。スープもあっさりした味だ。
店内の雰囲気も違う。ウランバートル系の店は、たいてい現地風のモダンな内装で、チンギスハーンの肖像と日本の角界で活躍しているモンゴル人力士の写真が飾られていたりする。日本にはモンゴル国出身の力士が多いせいだろう。実際、「IKH MONGOL」は大相撲の力士たちもよく来店すると聞く。