6月6日から9日に行われた欧州議会選挙では極右勢力が躍進を遂げた。物価高騰やウクライナからの安価な農産物の域内流入、移民・難民増などへの不満の高まりが背景にある。
移民排斥やウクライナ支援に異を唱えるフランスの国民連合(RN)の所属するアイデンティティと民主主義(ID)は改選前の49から58、国家主義を標榜する欧州保守改革(ECR)が69から73へそれぞれ獲得議席数を伸ばした。
欧州議会でドイツに次いで2番目に多い議席数が割り当てられているフランスでは、RNが30議席を獲得。得票率は31パーセントあまりに達し、エマニュエル・マクロン大統領の与党連合に倍以上の差を付けて圧勝した。
この結果を受けて、マクロン大統領は下院議会の解散・総選挙という賭けに出た。だが、この決断を疑問視する向きは少なくない。
繰り返される強行採択に国民の不満が噴出
「(大統領官邸の)エリゼ宮にはアブラムシが住み着いている。彼らはいつもそこにいて、取り除くのは難しい」ブリュノ・ルメール経済・財政相は、20日、テレビの「TV5」の番組に出演し、マクロン大統領に解散・総選挙をアドバイスしたとみられる側近らにこう苦言を呈した。
エリゼ宮の主が博打を打ったのはなぜか。
「RNに権力を委ねることに対して、有権者の一部が恐怖反射を抱くのを利用しようとしている」(同国のテレビ「フランス・アンフォ」)
つまり、極右へのアレルギーの残る国民を味方に付けようとしたわけだ。
今回の下院選挙は6月30日に1回目、7月7日に上位2人の候補者による決選投票が行われる。
RNの実質的なリーダーであるマリーヌ・ルペン前党首の父、ジャン=マリーヌ・ルペン氏は、過激な排外主義を掲げて、前身の「国民戦線」を率いた代表的な極右の政治家。2002年の大統領選では社会党のリオネル・ジョスパン首相(当時)を打ち破って予想外の決選投票進出をはたし、「ルペンショック」をもたらした。
これに対し2002年の2回目投票では、決戦へ歩を進めた対立候補の保守派・共和国連合のジャック・シラク大統領(当時)の支持へ左派政党などが一斉に回り、シラク氏が圧勝した。マクロン大統領はその再現を狙っているフシがある。
だが、マリーヌ・ルペン氏は極右色を薄める方向へ軌道修正を進めてきた。党名を「国民戦線」から現在の「国民連合」へ変更。国民感情を意識して反欧州連合(EU)・ユーロという従来の主張も見直し、移民や治安問題に焦点を絞るなどした戦略が奏功し、有権者の支持拡大につなげた経緯がある。
マクロン大統領の人気のなさも懸念材料の1つだ。フランスの調査会社「IFOP」が同国の新聞「ル・ジュルナル・ドゥ・ディマンシュ」向けに実施した世論調査によると、5月の支持率は31パーセント。この1年にわたり、ほぼ30パーセント前後で低迷する。
低支持率の一因は憲法49条3項の多用だ。フランスの法律は、社会基盤に関する重要法案について、投票による多数決を回避して成立させることができるという首相権限を定めている。エリザベス・ボルヌ前首相は1年8カ月の在任期間中、49条3項の発動を行ったのが23回を数える。
政府が昨年、年金の受給開始年齢を62歳から64歳へ引き上げることを盛り込んだ年金改革関連法案を成立させた際にも、ボルヌ氏は同条項を発動。採決を経ずに強行採択を行ったことに国民が猛反発、大規模な抗議行動が起きた。