外交は大統領の専権事項だが……
今回の下院議会選挙でも、RNの優位は揺るぎそうにない。リサーチ会社の「トルナ・ハリス・インタラクティブ」が10日に公表した世論調査結果によると、RNは前回の2022年選挙での獲得議席数89から、今回は全577議席のうち235ないし265と大幅に議席数を増やす見込みだ。一方、マクロン大統領の政党「再生」などの中道連合は、同249議席から125ないし155と大幅減の見通し。急進左派の「不服従のフランス」、社会党、共産党、欧州エコロジー・緑の党が選挙協力を行う左派グループは、同153議席に対して115から145にとどまる。
RNが第1党になれば、28歳のジョルダン・バルデラ党首が首相の座に就く公算が大きい。そうなると、大統領と首相の党派が異なる「コアビタシオン(保革共存)」の状態に陥り、政治的な混乱が長期化する可能性も否定できない。
なかでも懸念されるのがウクライナ支援の行方だ。マクロン大統領はEUのウクライナ支援を主導する存在で、同国への派兵を提唱している。一方、RNは派兵に対して慎重。従来からマリーヌ・ルペン氏とロシアのプーチン大統領との関係の近さも取りざたされている。
「防衛と外交に大統領が責任を持ち、内政は首相が担当する」のが、フランスの基本的な役割分担だ。とはいえ近年は経済や環境問題など内政にも大統領が関与する機会が増えた。
それでも、「首相が不可欠であることに変わりはない」(フランスメディアの記者)という。首相は大統領と閣僚や閣僚間の意見調整などに責任を負う。今後、大統領と首相の間に深い溝ができるようだとフランスだけでなく、EU全体の弱体化をもたらす恐れもある。
経済面への影響も気になるところだ。移民・難民問題で強硬姿勢を強めれば、人手不足の状態が深刻化し、落ち着きつつあったインフレが再加速するシナリオも考えられる。
もっとも、RNが第1党になっても、過半数の議席確保は困難な情勢。他の政党との連立政権を樹立するのか、それとも少数与党として政権運営を行うのか現時点では流動的だ。
金融市場は欧州議会選挙を軽視していた?
フランスの代表的な株価指標であるCAC40は、欧州議会選挙初日の6月6日から6営業日で7パーセント近い値下がりを記録した。足元は小康状態だが、油断は禁物だろう。仏資産運用会社「ナティクシス・インベストメント・マネージャーズ」のグローバル・マーケット戦略責任者、マブルック・シェトゥアン氏は5月23日のインタビューに答えて「欧州議会選で極右政党が伸長すればユーロ圏の統治がやや難しくなり、物事を複雑化させてしまうリスクがある」と警鐘を鳴らしていた。しかし、CAC40は昨年末から同日までに約7パーセント上昇。株式相場は欧州議会選をやや軽視していた感も否めない。
仏下院選挙は今後の世界情勢を占う試金石。RNが獲得議席を大幅に増やせば、他の国や地域の極右勢力が勢いづくシナリオもありうる。パリ五輪・パラリンピックの開幕まであと1カ月。スポーツの大イベントに先んじて、世界中からフランスへ強い関心の目が向けられている。