席につくと、しばらくして生演奏が始まった。高く解放的な天井と緑に囲まれたラウンジで、情緒豊かに演じられる曲に乗せて語られるシェフの言葉は、言葉という固い枠に閉じ込められていた言霊が解放されて、生き生きとした本来の血色を取り戻したようなエネルギーに満ちていた。
それは、料理も同じことだ。選りすぐりの食材に出迎えられ、モダンアートに囲まれた店内でいただく食。それは、音楽やアート、インテリアなどが相まって生み出された、五感を動かす、一つの総合芸術なのだ。
インタビューの最後に「料理は自分の言葉であり、気持ちを表現する手段だ」、と語るダコスタシェフに少し意地悪な質問をしてみた。
「もし、料理ができないとしたら、何をしていると思いますか?」
参ったな、というふうに相好を崩したシェフは、「なんだろう、料理に関係することはしているでしょうね……多分、陶芸で他のシェフたちのために皿を作るのではないかと思います。皿は、料理のスタート地点ですから」と答えた。
全てにおいて美意識に満ちた世界観を表現する、食というアートの世界。14歳の時に料理本を読んで「この世界の一部になりたい」と夢見た世界に、今、ダコスタシェフは生きている。