食&酒

2024.06.30 11:15

14歳で本をきっかけに天職の道へ。スペインの3つ星シェフの現在地

エンリケ・ダコスタ シェフ

一つ、気がついたことがある。これまで多くのシェフインタビューをしてきたが、シェフは通常、静かなレストランの個室などをインタビューの場所にすることが多い。しかし、ダコスタシェフが指定したのは、夕刻、ホテル内の優雅なロビーラウンジのグランドピアノの前だった。
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席につくと、しばらくして生演奏が始まった。高く解放的な天井と緑に囲まれたラウンジで、情緒豊かに演じられる曲に乗せて語られるシェフの言葉は、言葉という固い枠に閉じ込められていた言霊が解放されて、生き生きとした本来の血色を取り戻したようなエネルギーに満ちていた。

それは、料理も同じことだ。選りすぐりの食材に出迎えられ、モダンアートに囲まれた店内でいただく食。それは、音楽やアート、インテリアなどが相まって生み出された、五感を動かす、一つの総合芸術なのだ。

インタビューの最後に「料理は自分の言葉であり、気持ちを表現する手段だ」、と語るダコスタシェフに少し意地悪な質問をしてみた。

「もし、料理ができないとしたら、何をしていると思いますか?」
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参ったな、というふうに相好を崩したシェフは、「なんだろう、料理に関係することはしているでしょうね……多分、陶芸で他のシェフたちのために皿を作るのではないかと思います。皿は、料理のスタート地点ですから」と答えた。

全てにおいて美意識に満ちた世界観を表現する、食というアートの世界。14歳の時に料理本を読んで「この世界の一部になりたい」と夢見た世界に、今、ダコスタシェフは生きている。

文=仲山今日子

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