今後の見通し
同社の将来的な見通しはどうだろうか? 現在の市場価格である約126ドルは、予想利益の約50倍という水準で取引されており、これは、エヌビディアが実質的にAIチップ市場を独占するだろうと市場が予測する結果と言えるかもしれない。しかし、もちろんそうはならない可能性もある。エヌビディアがAIチップ市場のポールポジションに君臨する一方で、AMDなど他のチップメーカーも、この分野で追いつくために多額の投資を行っている。AMDは先日、新型GPUのInstinct MI300Xを発表したが、これは特に生成AI向けの大規模言語モデルのトレーニングなどをターゲットにしている。AMDによれば、このMI300Xチップは、いくつかのパラメータにおいてエヌビディア製チップの性能を上回ると主張している。AMDのデータセンター部門(サーバー用チップやMI300シリーズなどの売上を含む)は、直近四半期の売上高が前年同期比約80%増の23億ドル(約3675億円)に達した。
また、グーグルのような大手テック企業も、AIや機械学習関連の半導体への投資を増やしている。例えば、グーグルが開発するプロセッサー、Google Tensorは、機械学習に特化したものだ。エヌビディア製のチップは現在のところ総合的な性能において優れていると言えるが、グーグルは独自のソフトウェアやプログラミング言語などを活用して顧客を囲い込んでおり、今後の競争によって、エヌビディアが現在の収益成長率や異常に高い利益率(前四半期の純利益率はなんと57%)を維持できなくなる可能性もある。
競争の激化以外にも、いくつかの懸念がある。現在見られるGPU需要の急増は、AI大規模言語モデルの初期トレーニング段階が終わりを迎えるにつれ、減速する可能性がある。AIモデルを訓練するフェーズから、それらのAIモデルを利用するフェーズに移り変わることは、低消費電力やオンデバイスでの性能といった要件へと重点がシフトする可能性があり、それにつれてGPUに対する需要拡大の度合いは小さくなる可能性もある。
少数顧客に対する収益の依存化も問題だ。ブルームバーグの推定では、エヌビディアの収益の約15%をマイクロソフトが占め、次いでフェイスブックの親会社であるメタ・プラットフォームズが13%、アマゾンが6%、アルファベットが6%となっている。また、これらの大口顧客の多くは、独自のAIチップの開発にも取り組んでいる。
そうした背景に加え、各国政府はAIを革新的なテクノロジーとみなし、この分野の規制強化も検討している。バイデン政権は、A100やH100のような先進的なチップの対中輸出に規制をかけている。同社はそうした規制に対応するために、設計に手を加え、ルールの範囲内でビジネスを行えるよう工夫しているが、そうした規制も同社にとってのリスクである。
市場予想によれば、エヌビディアの今期の年間売上高は前年に比べておよそ2倍になるとするが、何らかの理由で成長が鈍化した場合、特に現在の高金利環境では株価に大きな変動が起こり、投資家にとって大きなリスクとなる可能性がある。そうした背景も踏まえ、私たちは、エヌビディアの目標株価を現在の市場価格より約30%ほど低い89ドルとしている。
(forbes.com原文)