キャリア・教育

2024.06.27 18:30

世界的音楽家ヨーヨー・マが語る「ベストを尽くす」ということ

チェリストのヨーヨー・マ。米ワシントンで2024年4月25日に行われた、パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍の空爆により死亡した援助団体ワールド・セントラル・キッチン(WCK)の職員7人の追悼式にて(Anna Moneymaker/Getty Images)

チェリストのヨーヨー・マ。米ワシントンで2024年4月25日に行われた、パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍の空爆により死亡した援助団体ワールド・セントラル・キッチン(WCK)の職員7人の追悼式にて(Anna Moneymaker/Getty Images)

人の行うことに「完璧さ」を求めるのは夢物語だ。しかし、完璧な仕事ぶりを要求しがちな風潮は根強く残っている。
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米公共ラジオ(NPR)のトーク番組「フレッシュ・エアー」に先だって出演した世界的著名チェリストのヨーヨー・マは、司会者のテリー・グロスに対し、音楽家はコンサートで失敗することを前提にはできないとしたうえで「私が立ちすくまずにいられるのは、ただ、自分がベストを尽くしていると言えるから。そして、もしうまくいかなくても、私がベストを尽くそうとしていると聴衆は知っているからだ」と語った。

また、燃え尽き症候群を回避し、生き生きと仕事を続ける秘訣について「どうすれば若々しさや元気を回復し、常に好奇心と行動力を持ってベストを尽くせるのか。私はノイローゼになりたくないので、自分を許すようにしている」とも話した。

「完璧さ」の追及には限界がある

優秀な人間にとって、自分の限界を理解するというのは難題であることが多い。ヨーヨー・マによれば、音楽家は「工業的美学」の罠に自らを追い込んでしまう場合があるという。つまり、製造業がめざすような「ミスのない」演奏である。

さらなる知見を求めて、筆者は指揮者のティファニー・チャンに話を聞いた。チャンはオーケストラのメンバーに「毎回まったく同じ演奏をする必要はないと言っている」という。
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「音楽家にとって理想の演奏を思い描くのはたやすいことで、その理想を再現しようと練習に全力を注ぐ。だが、それは必ずしも現実的ではない。フレージングもテンポの変化も、合わせるのが難しい箇所も、きっかり同じように演奏する必要はないのだ。それよりも、その瞬間に(演奏者同士が)互いを意識し、力を合わせてその楽節を演奏しきることが大切だ」

オーケストラ奏者には「完璧な演奏をすることが目的ではないと念押ししている」とチャンはいう。「より良い演奏をめざして一歩を踏み出すことこそがゴールだ。たった1つの完璧な楽曲解釈などというものは存在しない。今日私たちが直面している人的その他のあらゆる要因に照らして、今の私たちが正しいと思う解釈があるだけだ。完璧であることよりも、より良いものをめざすことに集中するほうが有益だ」
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翻訳・編集=荻原藤緒

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