このデバイスがユニークなのは、従来のXRヘッドマウントディスプレイと比較して大幅にUXが向上している点もそうですが、なんといっても「スペイシャル(空間)コンピューティング」を地で行こうとしているところ。
コンピューティングの次世代、つまり「モバイルコンピューティングの次」をちゃんと作ろうとしていることです。
Meta Questなどは基本的に「Snapdragon」というモバイル向けのチップを使っていて、設計の思想はあくまでもスマートフォンの延長線上のようなものになっていますが、Apple Vision ProはいわゆるMac用の「M2チップ」とXR用に独自に開発した「R1チップ」を搭載している、ハードウェアの設計思想レベルでモバイルの延長ではない「新しいコンピュータ」なのです。
そういったものをゼロから作れる能力を有していて、今のVRとかARの流れではなく、Apple Vision Proをフラグシップ機として、空間コンピューティングという第4波の新たな時代を作ろうとしている。そのパワーに僕も感銘を受けました。
今回のコラムでは、このApple Vision Proが切り拓く「空間コンピューティング時代」とは一体何なのか、私たちにどんな未来をもたらすのかを考えてみたいと思います。
![Apple Vision Proを世界開発者会議「WWDC23」で発表したアップルCEOのティム・クック氏(Photo by Justin Sullivan/Getty Images)](https://images.forbesjapan.com/media/article/71905/images/editor/6b217d0316cb8d85ed40cb5ae28ecfffbc139f70.jpg?w=1200)
コンピューティングの第4波「空間コンピューティング時代」の潮流とは──
計算機とコンピューティングの歩みは、カルチャーと言っていいかもしれないし、人類のストーリーとも言えるかもしれません。第1波はメインフレームの時代です。1950年から60年頃、コンピュータの父などと呼ばれるアラン・チューリングをはじめ、部屋いっぱいをコンピュータで埋め尽くし、計算するのも大変という時代でした。
次に、IBMなどが強かった時代に、第2波「パーソナルコンピュータ」の時代に移りました。この時のカルチャーを牽引したのはアップルでした。1977年にアップルIIが発売されました。
![Apple II(Photo by SSPL/Getty Images)](https://images.forbesjapan.com/media/article/71905/images/editor/3878506d098787f95fb1cedfc5c03e827e7e0645.jpg?w=1200)
1人1台パソコンを持つようになった次には、コンピュータを持ち歩くようになりました。第3波「モバイルコンピュータ」の時代です。今まさに最盛期を迎えていますね。誰もがスマートフォンを持つ時代です。
技術的に重要だったのはクラウドです。端末ではなくクラウド側で計算をする。サーバー側にいろんなデータを貯めて、計算をして、その計算結果をコンピュータ側に返していくという仕組みで、クラウドとモバイルコンピュータが発展していきました。
この時代をリードしたのも......そうです、2007年にiPhoneを発売したアップルです。
![iPhoneを2007年のMacworld Expoで発表したアップル共同創業者で元CEOのスティーブ・ジョブズ氏(Photo by David Paul Morris/Getty Images)](https://images.forbesjapan.com/media/article/71905/images/editor/301fffd2478f45be122f244557c6b3fb07f53ba3.jpg?w=1200)
そして、いま起ころうとしているのが、冒頭で述べた「空間コンピューティング」時代の到来です。コンピュータが空間を作り出し、空間自体に埋め込まれていくという第4波の新時代です。
ここに双璧をなす形で相互に大きな影響を及ぼしているのがAI、Artificial Intelligenceです。
空間がコンピュータとなって、データがネットを介して世界中を飛び回り、クラウド側で思考すること自体を機械が代行してくれる時代になる。「空間コンピューティングxAI」、空間コンピューティングとAIの融合というのが、第4波の大きな流れです。
ちなみに、最終形態としての第5波も描いていますが、その話の前に皆さんにも先の未来を想像していただきながら、もう少し詳しくこの来るべき空間コンピューティング時代とAI、メタバースの価値と関係について、僕が考えていることをお伝えしたいと思います。