大転換期を迎える日本経済に「次のインパクト」をもたらすのは、間違いなく次世代の人々が持つ起業家精神だ。『Forbes JAPAN』では、これからも物事をまるで違う目で見る人たちの壮大なビジョンと挑戦に敬意を払い、世界を変える人々の姿を伝え続けたい。
2019年にスモール・ジャイアンツ グランプリに選ばれたヒルトップ。「尖った中小企業」が手を組み、スピード感をもって新たなビジネスに挑む。目指すのは、脱炭素社会の新市場を生み出すゲームチェンジャーだ。
京都府宇治市の金属切削加工メーカーヒルトップは、AIやデータを駆使した独自システムで高付加価値の部品を加工・納品する知的集約型のビジネスモデルで成功している。そんな同社を中心に中小企業3社が手を組み、合弁会社ネクストコアテクノロジーズ(NCT)を設立。モーターを効率化する次世代型の「アモルファス積層コア」の量産技術で世界に挑む。
「この話、うちじゃなくてモーターの大手メーカーを相手にするべきですよ」。ヒルトップ社長の山本勇輝は話の腰を折るように言った。だが、京都市のビザイム社長の金清裕和は、あきらめずに続けた。「実用化できれば世の中を大きく変える。一緒にチャレンジしてほしい」。
小型EVや家電製品などあらゆるモーターの中心部、モーターコアに使われる電磁鋼板をアルモファス合金に置き換えれば、エネルギー効率が10%以上改善する。世界の電力消費の50%以上を占めるモーターのエネルギー効率1%の改善は原発12基分の省エネに相当するとされ、脱炭素ビジネスでゲームチェンジャーになり得る新素材だ。
金属大手から独立し、アモルファス合金など磁性材料の開発に人生をかけてきた金清と、知人の紹介で山本は出会った。職人の技術をデータ化し、製造ラインの完全無人化に成功し、注目を集める山本にとっても、実用化が未知数な段階でリスクが大きすぎる話だった。金清との4時間の話し合いの末、「本来ならこの事業の主体は大手企業であるべき」と強く思ったが、同時に自問した。「目指すべき世界がそこにあって、今、そのバトンが目の前に差し出されている。やるべきじゃないのか」。帰りのタクシーで、金清に電話をしていた。「この事業、一緒にやりましょう」