宇宙

2024.06.24 12:30

火星のサンプルを「早く・安く」地球へ 民間に課された史上最も複雑な計画

ⒸNASA/JPL-Caltech/MSSS

ⒸNASA/JPL-Caltech/MSSS

火星で採取した岩石を地球に持ち帰る計画が、NASA(米航空宇宙局)とESA(欧州宇宙機関)の間で進められている。しかし、現状のプランでは予定した期限に間に合わず、予算も超過してしまうことが判明した。そのためNASAは、より迅速かつ安価に計画を遂行できるプランを民間企業から急遽募集。その結果、候補7社が6月7日に選定された。

火星サンプルリターン計画(MSR)とはどんな計画であり、何を成し遂げようとしているのか? 選定された企業はどんな手段を用いて火星からサンプルを持ち帰ろうとしているのか?

火星の謎を解明する43本のチューブ

いまこの瞬間にも、NASAの無人探査ローバー「キュリオシティ」と「パーサヴィアランス」は火星の地表を走り続けている。どちらも車両質量は約1トン。ほぼ同型の姉妹機だが、搭載する機器に違いがある。

キュリオシティは2012年8月に火星へ着陸した。岩石にレーザーを照射し、気化したガスを化学カメラ「ChemCam」で観測することで、その元素組成までを割り出すことができる。X線粉末回折装置「CheMin」では、岩石の化学組成を解析することも可能だ。「走る科学実験室」とも言われるキュリオシティは、火星環境が生命に適したものであった証拠を探し、その解析データは、火星の周回軌道上にある探査機を介して地球に送信されている。

そのキュリオシティが2023年7月、火星地表で「多様な有機分子」を発見した。有機物とは炭素でできた分子を意味し、水素、酸素、窒素、リン、硫黄などの元素を含むことが多い。どれも生命のカラダを作るうえで欠かせない材料だ。

しかし、有機物は生物だけでなく、地質学的な営みによっても生成される。その違いをキュリオシティの搭載機器だけで分析することはできず、地球に持ち帰って調べる必要がある。しかしキュリオシティにその機能はない。

姉妹機の「パーサヴィアランス」は、この課題を克服するために打ち上げられたともいえる。キュリオシティが徹底した「現場主義」だとすれば、パーサヴィアランスは「連携主義」の機能を持ち合わせている。

パーサヴィアランスは2021年2月に火星へ到着。多種多様な化学機器によって、火星にかつて生息したと思われる生命の痕跡を探しながら、次につながる役割を果たしている。地下レーダー「RIMFAX」で深度10mにある「水の氷」や塩水を探し、資源利用実験器「MOXIE」では火星大気中の二酸化炭素から酸素を生成している。こうした活動は、NASAが2030年代に予定する有人火星探査の下準備といえる。

また、パーサヴィアランスは目ぼしい岩石を見つけるとドリルで掘削し、そのサンプルをチューブに格納する。43本あるチューブのうち23本はすでに封入され、うち10本はパーサヴィアランスの機底からウミガメのように産み落とされ、ジェゼロ・クレーターの地表に置かれている。

ただし、パーサヴィアランスが打ち上げられた時点では、その回収方法は決まっておらず、計画も承認されていなかった。いつの日か、誰かが、何らかの手段で、このチューブを回収して地球に持ち帰るのを待ちつつ、パーサヴィアランスはサンプルを採取し続けていた。
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編集=安井克至

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