22年8・9月号のリニューアルでは、コロナ禍以降の新時代について、未来の理想を描き、社会実装する個人や組織の「新しいビジョン」が鍵を握るとした。
今号では、次の10年を見据えた特集テーマに「THE NEXT IMPACT THING」を掲げた。3号に共通するのは、「起業家精神」が生み出す価値へのポジティブな思いだ。大転換期を迎える日本経済に「次のインパクト」をもたらすのは、間違いなく次世代の人々が持つ起業家精神だ。『Forbes JAPAN』では、これからも物事をまるで違う目で見る人たちの壮大なビジョンと挑戦に敬意を払い、世界を変える人々の姿を伝え続けたい。
評価額1700億円を超える日本のユニコーン企業、SmartHR。急成長のさなか、創業者の宮田昇始は突如社長を退任し、新たな挑戦を始めた。その真意と、彼の起業にかける思いとは。
成功した起業家の人生はさまざまだ。上場後も組織のさらなる成長を目指して経営を続ける人もいれば、事業から距離を置き、投資家に転身したり悠々自適にアーリーリタイアしたりする人もいる。
2024年2月にARR(年間経常収益)が150億円を突破したクラウド人事労務ソフト「SmartHR」の生みの親である宮田昇始が選んだのは、いずれの道でもなかった。22年1月にSmartHRの代表取締役社長を退任。同月末には100%子会社のNstockを立ち上げてCEOに就任した。連続起業家としての生き方を選んだのだ。
もっとも、宮田は次の起業ありきで退任したわけではなかった。
「社員数が500人ぐらいになり、会社のフェーズと自分にズレを感じるようになりました。例えば、チームであつれきがあったとき、僕は悲しくなってしまうタイプ。規模の大きな組織は『人が増えるとこんな現象が起きるのか』と面白がれるくらいでないと経営できない。それができる人に託そうと退任を決めました」
決意した21年夏の時点では、その後の身の振り方を考えていなかった。社内の新規事業担当者の壁打ち相手をするなどのアイデアもあったが、それだけでは時間をもて余す。このままでは社内ニートかも──。そんな不安が膨らんできたとき目に留まったのが、新規事業について雑談する社内Slackだった。
「一緒にNstockを立ち上げた高橋(昌臣)が、『ストックオプション(役員や従業員が自社株を予め定められた価格で取得できる仕組み、以下SO)の管理機能をSmartHRに追加したらどうか』と投稿して、150件ほどレスがついていました。そのスレッドを見た瞬間、これはいいなと」
そこでは、SO管理オペレーションの負担の大きさが議論されていた。宮田自身、SOの発行側として、うまく活用しきれていない後悔もあった。日本はSOをもらっても退職したり、会社がM&Aをしたりすると失効する場合が多い。自分がどれくらいの価値のSOをもらっているのかを正確に把握しにくく、近い将来に獲得できる可能性の高い報酬を捨てて安易に転職してしまうケースもある。