200億円も視野に
市場に合わせた展開が功を奏して売り上げ100億円を突破したキャニコム。実は売り上げ100億円は、2015年に社長を継いだときからの目標だった。当時掲げた標語は「売り上げは力。利益は品質」。利益を度外視してもまずは売り上げを上げるという決意表明だ。「僕は見栄っ張り。売り上げ20億円で利益5億円の経営者のほうが優秀かもしれませんが、それより売り上げ100億円のもつ響きのほうが魅力的でした。実際、トップラインが低い会社に人は来ない。将来利益を上げるためにこそ、まず利益を考えずに売り上げを追求しようと思いました」
社長就任直前の売り上げは49億円。新社長が掲げた100億円の目標は、誰の目にも無謀なものに映った。
それでもひるまなかった。早くからアメリカ市場を任されており、海外市場の開拓には自信があった。むしろ心配は受注に生産が追いつかなくなること。工場には経験豊富な職人が多かったが、生産技術のアップデートが止まっていて、非効率だった。
「最大の教育は設備投資。最新の設備を入れれば、それに合わせて人も伸びていく。そう考えて新工場を建設しました」
生産拠点「演歌の森うきは」は21年8月に稼働した。海外営業の強化と生産能力アップで、念願の100億円を達成。地方の中小メーカーでも世界に通用することを証明して見せた。
見栄っ張りの包行は、早くも「2030年売り上げ200億円」を目標に据える。課題は組織力だ。
包行の海外出張は今でも年間100日を超える。トップ自ら海外の顧客に会い、ニーズをすくいとるためだ。最近ではアジアを回り、冷房付きダンプキャリアの開発を決めた。途上国で冷房付きは売れないというのが業界の常識だったが、自分の目で現地を見て、農家のニーズが変わりつつあることを感じたのだ。
しかし、現場の潜在ニーズをきめ細かにすくいあげて付加価値につなげる能力は、包行や担当役員の属人的なものだ。事業規模が大きくなれば、一部の人の頑張りだけでは立ち行かなくなる。
実は「SMALL GIANTS AWARD 2022-2023」グランプリ受賞後、これまで海外出張に消極的だった社員が自ら手を挙げるようになった。社員の意識は変わりつつある。
「僕や担当役員がやっていたことを組織やシステムでできるようにならないと、200億円は見えてきません。幸い売り上げ重視でやってきたら、経常利益が15億9800万円出ました。お金の使い方に慣れていないから残ってしまいましたが(笑)、今後はこれを組織力強化や社員の待遇改善に使いたい。そうすれば200億円も夢ではないと思う」
かねゆき・よしみつ◎1980年、福岡県生まれ。大手小売り企業勤務を経て、2004年に筑水キャニコムに入社。06年にはCANYCOM USAの社長に就任した。12年BBT大学院にてMBAを取得。15年から現職。「ものづくりは演歌だ」のポリシーのもと、「人」に寄り添う経営と製造を目指す。