「卵が3つ育ってます」
クロミッドというホルモンレベルを上げるという薬を飲んでいると、大きな副作用は感じなかったのだが、目がちょっと霞む感じがあった。かかりつけの鍼灸師も自身が不妊治療をしているときは同じような症状があったらしい。とはいえ日常生活や仕事に支障があるほどではなかったので、指示通り服薬を続けて、通常通り仕事を行い、数日後に3回目の診察。男性の、初めての医師だった。服薬のおかげでホルモンの数値は順調に上がっていた。そして、卵が、「3つ育ってますね」と言われた。1つと思っていたので、3つという数字に驚く。診察中にエコーを確認することができるのだが、子宮のここに卵が一つ、もう一つここに、と、順番に指し示してもらう。自分の体の中で起こっていることなのに、これまで何十年も卵が育っているということに無自覚であったために、新鮮な驚きが走った。
3つの卵を指し示した後、医師は、ただ、空の卵の可能性もあると補足し、さらに、今飲んでいる薬は続けて飲んでもらうけれども、次の診察の時の具合で、注射も併用してもいいかもね、と説明した。この日の請求額は1万3千円程度。次の診察は3日後となった。
その3日後の、4回目となる受診では、卵の育ち具合を確認する診察があり、3つの大きさはまちまちだが順調に育ってきているという。左が一つ、大きく育っていて、右には二つ。一つは大きめ、もう一つは小さい、その様子を再度エコーで確認されたあと、2日後に採卵の予約を取るように、と、医師の指示があった。
そう、ついに採卵日が決まったのだ。また、卵の数が少ないため、麻酔はしないということだった。なぜなら、麻酔注射は、するとすれば4回。だが、私の場合卵3個だから手術中の穿刺回数は3回、つまり、麻酔注射の回数の方が穿刺の回数より多くなってしまうためだ。しかも、むしろ麻酔の注射の方が痛いともされる。
この日の請求額はちなみに、1万8千円弱だった。費用的にはこれまでで約7万円を計上していることになる。
ここまでで、初診の後、生理2日目の受診(服薬指示)、その約1週間後の受診(卵の数を告げられる)、そして採卵日が決まった診察が4回目の来院。
フルタイムの仕事を持っている身としては、1、2週間の間に数日ずつの間隔で仕事を部分的に休んで来院し、かなりの時間と精神的なキャパシティをこの治療に費やしてきている。ただ、採卵するには卵が育った状態で、さらにそれらが排卵されないタイミングを狙う必要があるため、ピンポイントで日が特定されてしまう。このクリニックは土日も診療していて、採卵自体も土日も行っているが、とはいえ卵子は土日を待ってはくれない。
後編:徹底ルポ「40代後半で卵子凍結」後編。卵2個凍結、そしてに続く
高以良潤子◎ライター、ジャーナリスト、インストラクショナルデザイナー。シンガポールでの通信社記者経験、世界のビジネスリーダーへの取材実績あり。2015年よりAmazon勤務、インストラクショナルデザイナーを務めたのち、プログラムマネジャーとして、31カ国語で展開するウェブサイトの言語品質を統括するなど活躍。2022年より米国系IT企業勤務。