WOMEN

2024.07.10 15:15

医師にはシブられても。40代後半で挑んだ卵子凍結を克明ルポ

診療を受けたクリニックで。 個室待合室のリクライニング機能付き椅子(左), Getty Images

「子どもを持たない」という選択意思はなかった

筆者は未婚で、特定のパートナーはおらず、子どもはいない。ただ、いわゆる就職氷河期世代と言われる世代に属する日本の中年女性によくあるように、「子どもを持たない」という選択を意思を持ってみずからしてきた結果今子どもがいないかというと、特にそうではない。可能性は自分では否定してこなかったけれど、今や自分ではなく時間が、年齢がその可能性を否定する時期に差し掛かっている。いや、むしろもはやその時期を通り過ぎようとしていると言ってもいい。
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ただ、子どもをこれまで持たなかった理由の一つに、筆者が過去に付き合っていた人のうち複数の人が、男性向けの避妊手術(いわゆるパイプカット、vasectomy)をしていて、子どもを持つことを特に望んでいなかった、という事情も関係がなくはないかもしれない。

避妊手術をした理由を彼らに問うと、おしなべて世界には十二分に人間がいるし、これ以上人間を増やさなくて良いと思うし、そういう(増やす)存在に自分がならなくて良いと思うから、という答えだった。これまでの筆者のように、子どもを持つ選択肢をなんとなく捨てもせず生かしもせず、というスタンスではなく、彼らは意識的に考えた結果、自らパイプカット手術を受けに行くという能動的な、そして確固たる姿勢を持っていたように思える。

そして、持っている生殖能力を「なくす」決断ではなく、風前の灯である生殖能力をなんとか残す、という曖昧な私の意志は、もちろんそこに男女の身体の機能差があるとはいえ、本当に自分がふわふわと、あまり考えずに生きてきた象徴のようだった。
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あまり深く考えたことがないままに、この更年期に差し掛かる時期をやり過ごして行くはずだったかもしれないのだが、会社による補助金に、婦人科の医師の言葉を借りると「目がくらんで」しまった、のかもしれない。

ユニクロの期間限定セールで、特に欲しいと思っていなかったものが明日から通常価格に戻ると知ると思わず買ってしまうように、自分が欲しかったのか別に欲しくなかったのかはわからないまま、「このサービスを使わなければいけない、なぜなら10年後は物理的にもう使うことができないから」と、まさにお金と、ふわっとした自分の欲深さに踊らされることになった。
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文=高以良潤子 編集=石井節子

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