【お知らせ】Firefoxでの記事閲覧について

30U30

2024.06.29 11:00

能登半島地震でシャワーを提供。目指すのは「水問題」の解決

前田 瑶介|WOTA代表取締役

Forbes JAPAN 2024年8月号は10周年特別記念号だ。特集テーマは、「THE NEXT IMPACT THING 『次のインパクト』はこれだ」だ。私たちは2014年8月号(創刊号)で、「新旧融合」をテーマにした。ソニー元CEOの出井伸之と、スタートアップ経営者が表紙に登場。世代、そして大企業、スタートアップの「新結合」が日本経済を動かすというメッセージだ。

22年8・9月号のリニューアルでは、コロナ禍以降の新時代について、未来の理想を描き、社会実装する個人や組織の「新しいビジョン」が鍵を握るとした。今号では、次の10年を見据えた特集テーマに「THE NEXT IMPACT THING」を掲げた。

3号に共通するのは、「起業家精神」が生み出す価値へのポジティブな思いだ。大転換期を迎える日本経済に「次のインパクト」をもたらすのは、間違いなく次世代の人々が持つ起業家精神だ。『Forbes JAPAN』では、これからも物事をまるで違う目で見る人たちの壮大なビジョンと挑戦に敬意を払い、世界を変える人々の姿を伝え続けたい。

一度使用した水をその場で循環できるシステムで水問題の解決に挑む前田瑶介は、コロナ禍の2020年に「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」を受賞した。今や日本に欠かせない企業に成長したWOTAを率いる、前田が見据える未来とは。


前田瑶介は、2024年元日に発生した能登半島地震の翌日から現地入りした。発災日の夜に石川県の西垣淳子副知事から支援要請を受けたからだ。前田は、同社のプロダクトである水循環型手洗いスタンド「WOSH」と、個室の水循環型シャワーとして使えるポータブル水再生システム「WOTA BOX」を計300台提供。被害が甚大だった珠洲市を皮切りに1月末には県内ほぼすべての断水エリアに提供した。前田は次のように語る。

「発災直後、手元にある在庫では能登半島をカバーするには足りなかったのですが、すでに保有していた自治体や企業が協力してくださり、十分な数を用意することができました」
 
WOTAは「水問題を構造からとらえ、解決に挑む。」を理念に、「小規模分散型水循環システム」を手がけるスタートアップだ。「小規模分散型水循環システム」とは、一度使用した水の98%以上をその場で再生・循環利用することができる、いわば水処理場の機能を10万分の1のもち運べるサイズで実現した技術。例えばポータブル水再生システム「WOTA BOX」では、6本のフィルターによるろ過、深紫外線照射、塩素添加によって水の再生処理を行い、その工程を自律制御している。
 
能登半島地震の初期対応で迅速にこれだけの数を導入することができた背景には、前田が大事にしてきた「誰もが運用できるプロダクトづくり」がある。過去の災害現場での経験から、早期展開と支援の継続のためには被災者自身に運用してもらうことが重要だと考え、プロダクトの改良と運用マニュアルの作成を進めてきた。
 
能登ではそれが功を奏し、大人だけでなく中学生の被災者がシャワーを運用する場面も見られた。運用のために必要なアクションは、シャワーテントやタンクなどと水処理機能をもつ「WOTA BOX」とをつなぎ、タンクに水を注いだ後、コンセントにプラグを差して電源を押すだけ。難しい工程はなく、シンプルな設計だ。
 
こうしたWOTAの活動は、天皇陛下にも伝わった。天皇陛下は24年2月の記者会見で「能登半島地震の被災地では、日本の優れた水処理技術とAIを結び付けた自律制御型のポータブル水再生(小規模分散型水循環)システムの活用により、入浴や手洗いのサービスが提供され、厳しい状況にある被災者の方々の助けとなっています」と話し、期待を寄せた。
次ページ > いち早く水問題を解決するために

文=田中友梨 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事