経営・戦略

2024.06.26 08:30

「スイングバイIPO」の提唱者。IoTグローバル・プラットフォームへ

玉川 憲|ソラコム代表取締役社長CEO

玉川 憲|ソラコム代表取締役社長CEO

Forbes JAPAN 2024年8月号は10周年特別記念号だ。特集テーマは、「THE NEXT IMPACT THING 『次のインパクト』はこれだ」だ。私たちは2014年8月号(創刊号)で、「新旧融合」をテーマにした。ソニー元CEOの出井伸之と、スタートアップ経営者が表紙に登場。世代、そして大企業、スタートアップの「新結合」が日本経済を動かすというメッセージだ。
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22年8・9月号のリニューアルでは、コロナ禍以降の新時代について、未来の理想を描き、社会実装する個人や組織の「新しいビジョン」が鍵を握るとした。

今号では、次の10年を見据えた特集テーマに「THE NEXT IMPACT THING」を掲げた。3号に共通するのは、「起業家精神」が生み出す価値へのポジティブな思いだ。大転換期を迎える日本経済に「次のインパクト」をもたらすのは、間違いなく次世代の人々が持つ起業家精神だ。『Forbes JAPAN』では、これからも物事をまるで違う目で見る人たちの壮大なビジョンと挑戦に敬意を払い、世界を変える人々の姿を伝え続けたい。 


KDDIによるM&Aを経て今年3月に上場したソラコム。磐石な事業基盤を築き上げた背景には、逆風下での苦闘があった。創業者、玉川憲が考えるIoT社会インフラとしての歩み方とは。
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2024年3月、IoTプラットフォームを手がけるソラコムは、東証グロース市場に上場した。14年の設立から10年を迎えた節目の年。創業者で代表の玉川憲は、「通過点でしかないですが、次のステージに進んだ実感と報われた感覚は確実にあって、社内のみんなは私以上に盛り上がっていますよ」と感慨深げだ。

同社のポートフォリオは目下、通信やネットワークからアプリケーション連携機能、センサー、カメラなどのデバイスまで拡大し、IoTに必要な製品・サービスを網羅的に提供している。上場直後に発表した24年3月期決算では、売上高が前期比26%増の79億円、契約回線数は600万回線に達したことを明らかにした。主要顧客の年間解約率は0.3%、売上継続率が123%など、強い支持を得ている裏付けとなる数字も示し、強固な事業基盤を築きつつあることをうかがわせた。とりわけ注目したいのは営業利益が7億円を超え、5期連続の黒字を達成している点だ。

上場に至るまでに直面した苦闘のなかで、ソラコムは独自の経営スタイルと揺るぎない強みを養ってきた。IoT SaaSとして設立当初から市場の注目度が高かった同社は17年、KDDIの傘下に。20年には自社の成長を加速させる新たな戦略として、スタートアップが大企業の支援で成長し上場する「スイングバイIPO」を掲げ、22年には上場申請したが、これをいったん取り下げたという経緯がある。マクロ環境の急激な変化が大きな逆風をもたらしたからだ。それでも玉川は、「スタートアップって結局、ハードシングスにぶつかりまくるんですけど、うちのチームはそれをいつだってなんとか乗り越えてきたんです」と胸を張る。

SaaSビジネスの「40%ルール」(売上高成長率と営業利益率の和が40%を超えていれば赤字でも健全な経営とみなす考え方)が象徴的だが、スタートアップ経営では当面の利益よりも成長のための投資に重きを置く考え方が一般的だった。しかし、22年初頭からの米国の利上げに伴いマーケットは一変。「売り上げさえしっかり伸びていればいいと昨日言っていた投資家が、今日になったら赤字じゃダメだと急に言い出したような感覚でした。IPOを真剣に考えていたからこそ多くの投資家と直接かつ頻繁にコミュニケーションを取っていて、潮目の急激な変化にいち早く気づくことができた」。
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文=本多和幸 写真=帆足宗洋(AVGVST)

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