「私は人間的な物語を撮りたい」
「サイドウェイ」以来、20年ぶりにポール・ジアマッティとタッグを組んだアレクサンダー・ペイン監督だが、そのことについて彼は次のように語っている。「私は人間的な物語を撮りたいといつも思っています。映画的な人生よりも、実生活に近い主人公とストーリーが好きなのです。ポール・ジアマッティとの協働は幸せな時間でした。彼は最高の俳優で、とても尊敬しています。彼はどのテイクもまさにリアルで、新鮮です」
20年ぶりにポール・ジアマッティとタッグを組んだアレクサンダー・ペイン監督 Seacia Pavao / (c)2024 FOCUS FEATURES LLC.
脚本はデビッド・ヘミングソンの手によるものだが、その執筆段階からペイン監督は、主役の堅物の教師役にはジアマッティを想定していたという。
ポール・ジアマッティは、最近では人気ドラマシリーズ「ビリオンズ」(2016〜2023年)でのタフな連邦検察官役が印象に残る俳優だが、「ホールドオーバーズ」ではまったく異なる役柄を演じている。ペイン監督に言わせれば、本作のほうがジアマッティの本来の姿なのかもしれない。
20年ぶりにペイン監督の作品に出演して、ワケありの過去を抱える教師役を演じたジアマッティは、監督について次のように語っている。
「『サイドウェイ』のときよりも、肉体、演技、感情について、ディテールを見る目が鋭くなり、遊び心も増していました。あらゆる面に精通していて、すべてに深い注意を払っている。どんな俳優に対しても対応方法を知っていて、エキストラを含めて出演者全員の名前を覚えています」
ちなみにジアマッティ自身も、かつては劇中のような学校に通っており、教師役についてもかなりの理解があり、親近感も覚えていたという。それだけに、接点のなかった3人が、やがて休暇中の学校内で心を開いていくという物語にもリアリティを感じていたにちがいない。
またこの作品は音楽も素晴らしい。時代設定は1970年なのだが、物語のテーマ曲とも言える楽曲には、比較的新しいダミアン・ジュラーの「Silver Joy」(2014年)を採用、哀愁を帯びたアコースティックな響きは、まさに「holdoveres」な雰囲気を醸し出している。
映画「「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」は6月21日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショーで公開 Seacia Pavao / (c)2024 FOCUS FEATURES LLC.
もちろん、クリスマスソングやクラッシックなどの挿入曲に交じり、ショッキング・ブルーの「ビーナス」やバッドフィンガーの「嵐の恋」、トニー・オーランド&ドーンの「ノックは3回」などの当時のヒットソングもノスタルジックに使用されている。
最後に、物語の味わいをさらに深いものにする劇中の「小道具」をそっと教えよう。さりげなく登場するブランデーのナポレオンとスノードームには、注意しておきたい。筆者はこういう小技がピリッと効いた作品にも、とても惹かれるのだ。
連載 : シネマ未来鏡
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