一方、古代史の教師であるポールは、融通の効かない性格のためか生徒たちからは煙たがられており、同僚の教師たちからも少し距離を置かれていた。本来なら、他の教師が休暇中の当直になるはずだったが、馬鹿正直な性格も災いしてかクリスマスも校内で過ごすことになる。
古代史の教師であるポールは休暇を前にして生徒に課題を出しブーイングを浴びていた Seacia Pavao / (c)2024 FOCUS FEATURES LLC.
もう1人、校内にはベトナム戦争で一人息子を喪ったばかりの食堂を預かるメアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)も残っており、生徒も教師も職員も去ったがらんとした食堂で3人だけの食事が始まるのだった。
20年前の「サイドウェイ」でも顕著だったことだが、監督のアレクサンダー・ペインは、この3人の登場人物の心の襞にまで入り込み、さりげない描写を重ねながら丁寧にドラマを構築していく。
けっして派手な展開があるわけではないのだが、風景や小道具などを巧みに物語のなかに折り込みながら、ときにコミカルな笑いも交えて、人物の心の機微を巧みに描いていく。そのクオリティの高さはあいかわらずだ。
ポールはアンガス(右)の要望を受け入れてボストンに出かけるのだったが Seacia Pavao / (c)2024 FOCUS FEATURES LLC.
しかもそれに応えるかのように、教師役のポール・ジアマッティも、料理主任のダヴァイン・ジョイ・ランドルフも、そして生徒役の新人ドミニク・セッサも、登場人物の複雑な胸の内を素晴らしい演技で表現している。
ちなみにジアマッティもランドルフも、アカデミー賞ではそれぞれ主演男優賞と助演女優賞にノミネートされ、ランドルフは受賞も果たしている。彼女が劇中で見せる自然体の演技は、まさに主演級と言ってもいいくらい、この作品に素晴らしい魅力を与えている。
食堂の料理主任メアリーを演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフの演技も光る Seacia Pavao / (c)2024 FOCUS FEATURES LLC.