時代を動かす「人のマインド」はどうやって形成されるのだろうか。というのも、説明し難い下図を見てほしい。日本の自殺者数の異常値である。
1899(明治32)年の統計開始以来、1998年に自殺者が初めて3万人台になった。しかも、前年まで2万人台前半で推移していたのに、突然の激増だ。その後、3万人台は14年間も続き、再び以前の規模に戻っている。なぜこうなったのか。
周知の通り、97年は名目GDPがピークに達し、日本の成長は止まった。金融危機の真っ只中にあり、「貸し渋り」「貸し剥がし」という言葉が流行。98年から賃金は下降を始め、非正規雇用が増加し、「就職氷河期」と言われた。デフレが始まったこの時期について、日銀の黒田東彦前総裁は本誌10周年記念号のインタビューで「経済問題を超えた社会問題」と言っている。
ただ、自殺者数激増とデフレが始まった時期は一致しているものの、その因果関係は証明できない。自殺は個人の問題であり、三大原因は「人間関係、健康問題、経済的理由」だからだ。
しかし、こう言えるのではないだろうか。原因克服への希望をもてない人が激増した、と。日本人の「生きるか死ぬか」の「閾値」が、がくんと音を立てて下がるほど、誰もが希望を描けなくなった時代。そう言えるのではないだろうか。では、逆に「希望」「活気」といった社会的ムードを形成するのには何が必要だろうか。