経済・社会

2024.06.25 10:30

新しい物語の幕が開く 次にくる「日本のインパクト」は何か?――編集長コラム

Oishii Farm提供。水循環システムの導入や太陽光発電で稼働する。

アメリカの植物工場の多くが失敗した理由は、単価の安いレタスなどしかつくれなかったことにある。他社はなぜレタス以外の単価が高いフルーツなどをつくれなかったのか。原因はミツバチの受粉。工場内では受粉ができなかったり、受粉の成功率が低くなってしまうためだ。
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「日本の施設園芸の技術はオランダと並んで世界一です。日本の農家さんにヒアリングし、1年かけてデータの収集と解析を行い、ハチの受粉成功率を上げる環境ができました」

日本の農業も長年の技術の蓄積がある。歴史の積み重ねを活用したわけだ。
Oishii Farm提供。水循環システムの導入や太陽光発電で稼働する。

Oishii Farm提供。水循環システムの導入や太陽光発電で稼働する。

また、工場は太陽光発電による電力で稼働。水も農地のようなかけ流しではなく、循環型にしたことで水不足に対応ができるうえ、畑作よりも水の使用を削減できている。さらに、空調、産業用ロボット、IoTもオールジャパンの技術で、自動収穫を行う。2の技術のすり合わせによる「経済複雑性」、3の自動化、それに加えて無農薬や異常気象に左右されないサステナブル指向もオイシイの工場の特徴だ。

気候風土に関係なく、どこでも食物栽培を可能にするため、植物工場を世界に展開できる。だから、古賀は「日本発の100兆円規模の世界産業」を創出できるという。
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「技術は10年もすれば、追いつかれます。だから、それまでにブランド化をしておく必要がありました」と言うように、2017年から発売したいちごは、ミシュラン3ツ星シェフやミランダ・カーといったセレブがSNSで積極的に発信したことで、瞬く間に話題になった。

日本の優位性を詰め込んだ植物工場で、トマトやメロンにも取り組んでいる。日本発にこだわる理由を、古賀はこう話す。

「子どもの頃、海外の複数の国で育ちました。学校に行くと、いろんな国の出身の同級生がいますが、日本はドラゴンボールを生んだ国で、プレイステーションの国でもあり、他の国の子たちから一目置かれる。日本が築いてきたことがこれだけ世界で信頼されている。この優位性があれば、世界一は夢ではないと思います」

生産国の名前がブランドになるのは、イタリア、ドイツ、そして日本だろう。いずれ技術は追いつかれても、信頼や感覚に訴える高付加価値は時間の蓄積と比例する。徒弟制度のように世代を超えて、伝えてきた技術を時代に合わせてアップグレードするのが新世代の役割だろう。オイシイに限らず、日本の製造業にも農業にもそれはできるはずだ。

世界のNext Impactとなるのは、「新Made in Japan」ではないだろうか。



私たちは2014年8月号(創刊号)で、「新旧融合」をテーマにした。ソニー元CEOの出井伸之と、スタートアップ経営者が表紙に登場。世代、そして大企業、スタートアップの「新結合」が日本経済を動かすというメッセージだ。

22年8・9月号のリニューアルでは、コロナ禍以降の新時代について、未来の理想を描き、社会実装する個人や組織の「新しいビジョン」が鍵を握るとした。

今号では、次の10年を見据えた特集テーマに「THE NEXT IMPACT THING」を掲げた。3号に共通するのは、「起業家精神」が生み出す価値へのポジティブな思いだ。大転換期を迎える日本経済に「次のインパクト」をもたらすのは、間違いなく次世代の人々が持つ起業家精神だ。『Forbes JAPAN』では、これからも物事をまるで違う目で見る人たちの壮大なビジョンと挑戦に敬意を払い、世界を変える人々の姿を伝え続けたい。

文=藤吉雅春

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