宮田:シード期の起業家は、資金調達の契約書を初めて見るという人がほとんどだ。投資契約条項が自社にとってフェアかどうかがわからないため、初期の投資ではなるべく簡潔な契約書にしてほしいと交渉をしたほうがいい。厳格な企業価値評価を行うことなく資金調達できるJ-KISS型新株予約権から始めて、少し進んだラウンドでしっかりとした条項で投資契約を結んでみるのが良い選択肢のひとつだ。
岡井:シードからシリーズAまでは、投資方針やファンドサイズではなく担当者で投資家を決めることをオススメしたい。上場に至るまでの長い時間、横に付いて伴走し続ける覚悟が投資家側にあるかという目で相手を見るといい。どんな担当者を選んでいるかで会社の格も決まると思っている。投資家選びでいい人がいなかったら諦めて自己資本でやる覚悟も必要だ。
長尾:重要なのは投資家に資金調達の相談をする際の準備を周到にすること。我々も、想定される質問を徹底的に洗い出したり、資料も細かく詰めたりした。そういった姿勢で誠意を込めて提案をするということを徹頭徹尾やっておけば、数十社と回るなかで共感してくれる人が見つかるはずだ。
佐渡島:セーフィーはベンチャーキャピタル(VC)から一切資金調達をせず、NTTグループやキヤノンマーケティングジャパン、オリックスなど事業会社に投資してもらっている。投資を受ける際に、セーフィーのサービスを販売する専門部署を設けてもらうことを約束するなど、ともにチームをつくっていく意識で資金調達をした。2021年に上場をしたが、どの主要な投資家もまだ株を売っていない。長期目線で、誰とどんな関係性をつくっていきたいかを考えるといい。
中島:いちばん苦しかった資金調達は17年のシリーズBの調達。我々は世の中にないプロダクト(IoT技術を活用した自動車ローンの支援サービス)だったので、理解してもらうことが難しく、投資家と温度感も違った。風向きが変わったのは18年のシリーズC。実証実験を進め、ようやく事業化が見え、思い描いていた数字が現れてきたタイミングだった。世界観が実際にかたちになってきて初めて耳を傾けてもらえることはあるので、いろいろな投資家に足しげく通って思いを伝え続けることが重要だ。
山野:レジャー予約サイトを手がけるアソビューは、コロナ禍にマーケットが消滅した。SNSでは、VCの人たちが「コロナ禍でも投資はしている」と情報発信をしていたため、わらをもすがる思いで相談に行った。しかし誰からも投資は受けられなかった。本当に苦しい状況の人には投資してくれないという現実を目の当たりにし、支援が受けられるのは事業が伸びている前提だということを忘れてはいけないと感じた。
西和田:CO2排出量計測ソフトを手がけているアスエネは、21年の電力危機が起きたときにキャッシュフローが回らず倒産しそうな状況に陥ったことがある。リード投資家に相談にいくと「事業自体はすごく伸びているからお金はすぐに出す。規制変更のロビイングも一緒にやる」と言ってもらい、資金調達にもこぎつけられた。現在までに約67億円の資金調達をしたが、株主と信頼関係を築くことを重視しながら事業を着実に成長させてきたことが要因だ。