ウクライナ空軍はF-16戦闘機によって、ウクライナの軍部隊や市民に向けて衛星誘導の滑空爆弾を月に3000発も投下しているロシア空軍の戦闘爆撃機を迎撃させようとするだろう。
汎用の航空爆弾に展開式の翼と衛星誘導装置を取り付けた誘導爆弾、通称「KAB」は、ウクライナの調査分析グループ、ディープステートに言わせればロシアの「ミラクル兵器」になっている。いまのところ、ウクライナ側に「対抗手段はほとんどない」。
ロシア空軍のSu-34戦闘爆撃機は高高度を高速で飛行してきて、滑空爆弾を40km先まで投下できる。より新しいタイプのKABは射程が伸びていて、最大65km先まで届くと言われる。敵機が40〜65km離れた場所から爆撃してくる場合、ウクライナ軍の既存の防空兵器、つまり旧ソ連製戦闘機や地対空ミサイルシステムでは毎回は反撃できない。
そこでF-16の出番となるわけだが、英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のアナリスト、ジャスティン・ブロンクによると、F-16のパイロットにとってそれは非常に困難な任務になりそうだという。ブロンクは最近の論考で「滑空爆弾攻撃の出撃機を着実に迎撃していくというのは相当難しいだろう」と予想している。
最大の問題は、ロシア軍の地上配備型の防空システムだ。こうした防空システムによって、ウクライナ軍機が高高度を飛行するのは国内のほぼどの空域でもきわめて危険になっている。なかでも、前線から160kmくらいまではロシア軍のS-400地対空ミサイルシステムの射程内に十分入るのでとくに危険だ。
ウクライナはたしかに、F-16用に射程160kmのAIM-120D空対空ミサイルも取得できる可能性がある。これがあればF-16のパイロットは、ロシア側の防空システムがカバーできる範囲ぎりぎりから敵機を攻撃できると思えるかもしれない。だが、そうもいかなさそうだ。というのも、AIM-120Dの実際の射程はもっと短くなると考えられるからだ。
「前線近くでは、自機がロシア軍の何層もある(中略)地対空ミサイルシステムに探知され、撃墜されるのを避けるため、ウクライナ軍のパイロットは非常に低い高度での飛行を余儀なくされるだろう」とブロンクは記し、こう続けている。
「これほど高度が低いと、ミサイルは空力抵抗が大きい高密度の空気の中からスタートし、目標が位置する高度に到達するために重力に逆らって上昇しなくてはならない。そのため、ミサイルは飛翔開始から数秒後にロケットモーターが燃焼を終えた時点で、空気の薄い高高度を超音速で飛行する戦闘機から発射された場合ほどの速度や高度には達していない」