経済・社会

2024.06.19 11:30

国連「サイバー犯罪条約」に猛反発の声、「監視権限の乱用を許す」

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国連のサイバー犯罪条約の最終決定日が近づく中、人権団体はこの条約が表現の自由を脅かし、国内監視を常態化させるものだと警告している。

国連総会は、2年半にわたる交渉と7回の交渉会合を経て、8月9日に国連サイバー犯罪条約の草案を採択するか否決するかを決定する。同条約は、各国がサイバー犯罪の防止と捜査及びサイバー犯罪者の訴追で協力するための包括的な法的枠組みを作ることを目的としている。

しかし、人権団体はこの条約が表現の自由を妨げ、国家による監視を可能にし、ジャーナリストやセキュリティ研究者の活動を脅かしかねないと懸念している。

「条約の草案は、もともとロシアの主導で作成され、その後の2年半に及ぶ交渉によってまとめられた。内容は、依然として強固なセーフガードなしに広範な監視権限を認めており、政府による権力の乱用を防ぐ上で不可欠なデータ保護原則を明記していない」と、電子フロンティア財団でグローバル・プライバシー担当ポリシー・ディレクターを務めるカティッツァ・ロドリゲスは話す。

同財団は、第24条の比例性原則が、合法性、必要性、非差別性の原則について明確に言及しておらず、監視権限の乱用を許す危険性があることを懸念している。この草案はまた、司法審査や独立審査がないなど、セーフガードが不十分で、監視行動は裁判官や独立した規制当局によって審査・承認されるという。

その一方で、権利が侵害された場合に異議を申し立てたり、救済を求めるといった効果的な救済策がない上、監視の量や期間に関する制限もない。また、その他のセーフガードは国内法に依存しているが、国内法は国によって大きく異なり、十分な保護を提供していない場合が多いため、効果はそれほど期待できないという。

「歯止めの効かない監視」を招く

「現状の草案は、人権に対する裏切り行為であり、歯止めの効かない監視と組織的な乱用への扉を開くものだ。これらの問題が是正されない限り、加盟国は重大な欠陥を認識し、この危険な条約を全面的に拒否しなければならない。リスクはあまりにも大きく、保護はあまりにも弱く、濫用の可能性があまりにも高い」とロドリゲスは述べている。

人権活動家たちは、セキュリティ研究者が脆弱性を調査する目的でセキュリティ対策を迂回した場合でも、犯罪者になり得ることを懸念している。なぜならば、草案のもとでは、こうしたバイパス行為は犯罪行為になるからだ。

草案の作成過程で一定の変更が加えられたものの、善意で行動するセキュリティ研究者や調査報道ジャーナリストに対する明確な免責措置はまだ存在しない。

国連人権高等弁務官事務所でさえ、関連する人権条約への明示的な言及や、条約のいかなる条項も「国際人権法における国家の義務を損なったり軽減したりするものと解釈されるべきでないこと」を明確にする規定のほか、一般的なセーフガード条項の盛り込みを求めている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアソシエート・テクノロジー&人権ディレクター代理であるデボラ・ブラウンは、次の様に話す。「何度も交渉が行われたにも関わらず、このサイバー犯罪条約案には根本的な欠陥があり、人権に重大な危険をもたらし、サイバー犯罪に効果的に対応していない。各国が、重要な人権保障措置について合意できないのであれば、拒否するよう強く求める」

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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