ソウルでも誰もが非常に礼儀正しかったが、李首相が目的を達成できたとは思えない。貿易やクリーンエネルギーなどの分野で協力を推進するといったお決まりの美辞麗句が踊った以外に、具体的な会談の成果と呼べるものはなかった。李首相は、経済・投資・貿易を安全保障や外交から切り離すことを主張したが、会談では安全保障問題をめぐって温度差が露呈した。
尹大統領と岸田首相はともに、北朝鮮のミサイル発射実験をはじめとする敵対的行為に歯止めをかけるため中国の協力を求めたが、李首相は韓国側に「貿易の政治化」をしないよう(自国のふるまいを棚に上げて)警告した他は、北朝鮮問題に言及しなかった。岸田首相は台湾周辺で中国が最近行った軍事演習に懸念を表明し、「台湾海峡の平和と安定」が日本と国際社会にとって「極めて重要だ」と李首相に伝えた。李首相が求める貿易と投資に関する進展はもちろん、ましてや3カ国のFTA推進など、安全保障問題をある程度解決しなければ望めないことが痛いほど明らかになった。
中国がこれまで貿易面で高圧的な態度に出たりせず、譲歩を要求したり制裁的措置を取ったりもしていなかったならば、経済・投資・貿易を安全保障・外交から切り離すといった提案は必ずやもっと生産的な展開を生んだはずだ。
中国は新型コロナウイルス感染症のパンデミックに際して重要な物資の輸出を停止し、中国に進出している外国企業に対しては独自技術や企業秘密を中国のパートナー企業と共有するよう要求した。外交問題をめぐり、日本への制裁措置としてレアアース(希土類)の対日輸出を禁止したこともある。今、中国政府はこうした過去のふるまいの代償を支払わされており、必死のほほえみ外交は望む結果を得られていない。
(forbes.com 原文)