だが、海洋が地球表面積の70%以上を占めていることを考えると、海洋が受ける影響や、そうした影響が地球で暮らすすべての人に与える意味について、じっくり検証する時が来ていると言えるだろう。
環境NPOのOceana(オセアナ)でチーフサイエンティストを務めるキャスリン・マシューズ博士は、あるインタビューで海洋について語り、気候変動によってもたらされた、人新世に関連する変化の多くについて、海洋は「その悪影響をまともに受けてきた」と指摘している。
マシューズ博士の説明によれば、海洋は、化石燃料を燃やすことによって全世界で発生している余分な熱の90%以上を吸収しているという。
博士が筆者に語ったところによると、海洋の水温が全体的に上昇していることから、これまでほど多くの海洋生物が生息できなくなり、繊細なバランスで成り立っている海面下の生態系が崩壊する恐れもあるとのことだった。
一例を挙げると、サンゴ礁を構成するサンゴは、体の中に住まわせている小さな藻類がいないと、生きていくために必要な養分を確保できないという。だが、水温が上がりすぎると、サンゴはこの共生している藻類を吐き出す。これは、サンゴの白化現象と呼ばれるプロセスだ。そのまま水温が低下しない状態が続くと、藻類と共生できないサンゴは死滅してしまうと、マシューズ博士は解説する。
マシューズ博士はさらに、海洋は大気中に排出された炭素を吸収しており、これが多くの海域で、海水の酸性化の進行につながっていると述べた。
博士によれば、酸性化は、炭酸カルシウムでできている殻を持つ海洋生物に直接的な影響を与えるという。なぜならこれらの生物は、酸性化が進んだ海では殻を形成するのが難しくなるからだ。
だが、科学の知見に基づいた適切な介入を行い、一部の海域では漁業資源が復活するまでの猶予を与えれば、海面下の生態系が回復の道につく可能性も残されていると、マシューズ博士は指摘した。
「私たちは、海を管理する適切な方法を理解している」と、マシューズ博士は筆者に語った。「これはむしろ、政治的な意思の問題であり、期間を定め、注意を喚起することが肝心だ」
一方、水産資源研究の第一人者で、オセアナの理事会メンバーでもあるダニエル・ポーリー博士は、「私たちは気候変動への対応にも苦慮しているが、今後とり得る行動のなかでも最悪なのは、諦めてしまって海洋の管理を投げ出すことだ。というのも、簡単に対策ができる部分を見逃すことになるからだ」と指摘する。
ポーリー博士はインタビューの中で、こうした「海洋熱波」と呼ばれる顕著な水温上昇は、温室効果ガスによる炭素の排出と気候変動によって頻発していると述べた。
ポーリー博士によると、こうした海洋熱波は、海流(メキシコ湾流など)や、気候パターンの変化(エルニーニョ現象など)によって起きている可能性があるという。
海洋の特定区域で水温が上昇すると、水中に含まれる酸素の量が減る。これによって、魚類の種によっては、必要とする量の酸素をエラ呼吸で得るのが難しくなる可能性がある、とポーリー博士は解説した。
「水温が上昇すると、魚が摂取できる酸素の量が減る。これに加えて、水温が上がると、魚は生存のために、より多くの酸素を必要とする」
「水温の上昇が緩やかであれば、魚も温度変化に適応できる。だが、突然の熱波は、魚にとっては窒息死につながる危険性がある」