欧州

2024.06.17 09:30

ロシア軍の最新鋭S-500防空システムがATACMSに対抗できそうにない理由

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ウクライナ軍の米国製ATACMS弾道ミサイルを用いたとみられる攻撃を受けて、自軍で最も高性能な地対空ミサイルシステムである「S-400」の損失が相次いでいるロシア軍は、いよいよ焦りを募らせているようだ。

ウクライナ国防省情報総局(HUR)のキリロ・ブダノウ局長によれば、ロシア軍は最近、最新の地対空ミサイルシステムである「S-500」を初めて配備したという。ロシア軍はS-500をまだ1基しか保有していないとみられる。

ブダノウは地元メディアに、ロシアの占領下にあるクリミアにS-500が登場したと語った。クリミアとロシア本土を結ぶケルチ海峡を守るためだという。ケルチ海峡やそこに架かるケルチ橋はロシアにとって、クリミアを含む占領下ウクライナ南部への主要な補給路のひとつだ。

S-500は十数年前から開発が進められてきたが、ロシアの研究開発向け予算が戦時需要に吸い上げられるなか、スケジュールは延び延びになっている。現在は本格的な運用開始は2025年と見込まれている。

本格運用前のS-500がクリミアに引っ張り出されたらしいことは、現地でロシア軍の防空問題がいかに切迫しているかを物語る。ただ、ブダノウによると今回は「試験的な運用」とみられるという。

いずれにせよ、大きな成果は期待しないほうがいいだろう。現状のS-500とS-400の性能差はそこまで大きくない。そのS-400はこのところ、ウクライナ軍のATACMSによるとみられる攻撃で月に1回以上のペースでやられており、2022年2月の戦争拡大前の50基前後からじりじり数を減らしている。

書類の上では、S-500システムにはレーダーが少なくとも3つ含まれている。うち2つはS-400のレーダーと基本的に同じものだ。もうひとつの「77T6」というレーダーは、ATACMSのように高速で飛来する弾道ミサイルの探知に最適化されている。ただ、このレーダーは数年前に開発されたばかりであり、謎に包まれている。

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のアナリスト、トーマス・ウィジントンも2022年7月の論考で、77T6の能力は「いまだによくわからない」と書いていた。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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