欧州

2024.06.16 09:00

米国がウクライナに装甲兵員輸送車の供与加速 「戦場のタクシー」M113、2カ月で300両

M113装甲兵員輸送車。2022年10月、米ラスベガス(adolf martinez soler / Shutterstock.com)

米国防総省は今月7日、2億2500万ドル(約350億円)相当の新たなウクライナ向け軍事援助パッケージを発表した。このパッケージにはM113装甲兵員輸送車(APC)200両も含まれていた。M113は先月の援助パッケージにも100両が含まれており、米国からの累計供与数は600両あまりに増えた。

米国製のM2ブラッドレー歩兵戦闘車やM1エイブラムス戦車、ドイツ製のレオパルト2戦車など、より新しく先進的な装甲車両が高く評価されている戦争で、冷戦時代の古い車両であるM113をウクライナが必要としているのは意外に思えるかもしれない。しかし、現在の戦場の動向を踏まえると、M113はウクライナの軍事ニーズをよく満たすものだと言える。

M113は、1950年代後半に米国で開発された装甲兵員輸送車である。この「戦場のタクシー」はベトナム戦争で広く使われ、その汎用性、耐久性、機動性に定評がある。生存性よりも機動性を優先して軽量なアルミ装甲が採用され、さまざまな地形を最高時速約68kmで走破でき、浮航能力まで備える。

その後、より厚い装甲が必要とされるようになったことから、M113は直接戦闘任務からは徐々に外れ、ブラッドレーに置き換えられていった。一方で、戦闘支援車両としては引き続き米軍で使用された。米軍のM113は1990年代に改修され、パワートレーン(駆動系)やドライバー制御機構が改良されている。だが、2007年に米政府の調達は終了し、段階的に退役していくことになった。

ウクライナがM113を追加で必要としている背景には、この戦争のダイナミクスの変化がある。2022年2月に始まった全面戦争の初期には、両軍の装甲車両同士の機甲戦が繰り広げられた。しかしウクライナ軍は現在、ドネツク、ルハンシク、ハルキウ各州の村や都市を守るため下車戦闘を数多く行っている。

ウクライナ軍はこれらの州の重要な拠点に対するロシア側の攻撃を撃退するため、塹壕や障害帯、要塞陣地のネットワークを構築している。そして、前線への兵士の送り迎えや物資の補給など、下車戦闘作戦の支援に用いられている車両のひとつがM113なのだ。

一方のロシア軍は、ウクライナ側の防衛陣地や装備を破壊するのに相変わらず野砲に大きく頼っている。そうしたなかで、機動力が高いM113は間接照準射撃では狙いづらく、薄い装甲も砲弾の破片からは乗員を守ることができる。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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