日本のスタートアップ創出や新規事業開発をめぐる課題と、それを打破するFTSのスペシャリティとは何か。プロジェクトと連動した番組収録に参加した、テレビ朝日の織田笑里と電通の三輪友寿に話を聞いた。
FTS連動番組『BooSTAR』が起業のヒントに!
暖かい陽気に包まれた5月の某日、東京・恵比寿にあるイベントスタジオ「STUDIO VIZZ EBISU」で、ある番組の収録が行われていた。テレビ朝日系列(※一部地域を除く)で放送されている『BooSTAR─スタートアップ応援します─』第3回目の収録だ。(※放送は月1回不定期)
司会の弘中綾香アナウンサーと経営学者の入山章栄の進行のもと、起業家をゲストに招いたトークセッションが繰り広げられる。この日のテーマは「テクノロジーで『食』の課題を乗り越える!」──。
「食ビジネスにおける現在の世界的な課題は『情報』と『流通』です。生産者と消費者を結びつける情報と流通に新たな可能性を見出すことに、ビジネスチャンスが潜んでいる」
入山がそう見解を述べたあと、実際に食の業界で画期的なサービスを展開している2人の起業家から新しいビジネスモデルが語られた。新規事業開発のキーワードとなったのは「ツーサイドプラットフォーム」に着目したサービス。入山がラクスルの例を交えながら丁寧に解説する一幕が印象的だった。(6月23日日曜日午前10時から・テレビ朝日系列にて放送予定 ※一部地域除く)
『BooSTAR』は、注目の起業家の活動を広く紹介したり、ビジネストレンドを発信することはもちろん、FTSと連動して「事業アイデアの募集プログラム」(詳細は後述)への応募をよびかけるなど、起業家や新規事業開発を目指す人をさまざまな切り口でサポートしていくことを目指している番組だ。
ワクワクする未来を創るためのビジネスチャンスは、実はあらゆるところに眠っていて、私たちの日々の悩みや気づきにその種がある──番組収録の中で話題に挙がったこのメッセージこそが、FTSの取り組みを活性化させるエンジンになりそうだ。
イノベーターを目指す人の可能性を開く、多様なプレーヤーの掛け算
テレビ朝日と電通が有するクリエイティビティ、そしてメディアとしての影響力はFTSの大きな強みだ。それに加え、企業・自治体・教育機関などの新規事業開発やオープンイノベーションにかかわる事業を国内外で展開するReGACY Innovation Groupがパートナーとして参画している。代表取締役社長の成瀬功一氏は、新規事業開発支援の立場から今回の試みに対して期待を語る。「意欲やアイデアのある人を支援するビジネスプラットフォームは多数ありますが、FTSはテレビ朝日、電通、Forbes JAPANなどのメディアと連動し、最速でイノベーションを加速することができるスタジオです。日本全体でイノベーターを目指す人たちが増えるトリガーとなり、最初の一歩を踏み出せる場にしていきたいと考えています」(成瀬)
また、今回『BooSTAR』収録が行われた「STUDIO VIZZ EBISU」も、実は事業パートナーである東急不動産が運営しているスタジオ。Forbes JAPANもまた、メディアパートナーとして事業を支援している。
このように、多分野のパートナー企業が持つアセットを活用しながらFTSはスタートしたわけだが、プロジェクトを推進するテレビ朝日・織田笑里と電通・三輪友寿はどのような未来を見据えているのだろうか。話を詳しく聞いた。
──まずは、FTSの概要とプロジェクト発足の背景について教えてください。
三輪友寿(以下、三輪):FTSは、起業を目指す人や大企業の新規事業開発担当者を支援するビジネスプラットフォームです。ワクワクする未来を創る起業家や、組織内で新しい事業やサービスを生み出していく方のことを我々は「ミライ起業家」と呼んでいますが、そうした人たちを応援し、革新的な事業や商品・サービスを生み出す場あるいは装置として機能したいと思っています。
織田笑里(以下、織田):テレビ朝日とForbes JAPANは、2022年1月に「FUTURE TALENT PORT」(以下、FTP)という共同プロジェクトを立ち上げました。「日本発 世界を変える30歳未満の30人」を選出する企画である「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」と連動し、次世代のイノベーターと企業や社会をつなぐ場を用意することで、濃密な情報交換やビジネスやクリエイションの現場で新しいアイデアが生まれ、それが社会に実装されていく好循環を目指したのです。
この取り組みを行う中で、アントレプレナーシップ(起業家精神)を抱くことの重要性は、UNDER30 世代に限ったことではないことに気付かされ、それがFTS発足に至る原点となりました。潜在的に眠っている誰かのアントレプレナーシップを無理なく開花させることのできる社会を実現させたい。電通さんと協力することで、それを最大限の形で実行することができるのではないかという思いがありました。
──他のスタートアップスタジオやビジコンなどとの差別化、FTSの特異性はどのような点にあると思いますか?
織田:スタートアップスタジオやインキュベーションセンターは全国的にもたくさんあると思うのですが、その取り組みがどれだけの人に知られているか/届いているかというのはとても大事なポイントだと思っています。その分野に対する感度が高い一部の方々にとってはすごく身近でも、そうではない人にとって遠い存在だともったいない。その点、有益な情報や知識を幅広く伝えられるのは、一定の影響力を持つマスメディアの特異性だと思います。
三輪:マスメディアのもうひとつの特長は、さまざまなアイデアやプレイヤーを掛け合わせるハブになれることだと思います。副業やフリーランスが浸透する中で、個人個人が自分のやりたいことを自ら実現する時代になっていくし、大企業もDXやAIなどテクノロジーの進化に適応しながら新たな事業を開発してグロースしていかなければいけない時代です。ただ、個人としてゼロイチで起業するのは大変で、大企業もこれまでにない領域に技術や発想力、アライアンス企業を求める必要が出てきている。
電通でもさまざまなクライアントのコンサルティングや、新しい事業のプロデュースを行っておりますが、社会を変革するような新しい事業やサービス、コンテンツの創出には、自社だけではないさまざまな要素を柔軟に取り込んでいく新しい手法が求められていることを感じていました。
だからこそ「掛け算」が大事なのです。私たちが持つメディア・広告会社としての立ち位置とネットワークをハブとして活用してもらって、いろいろな掛け算を生み出していくことで、事業の可能性はより広がるはずです。
誰もが心のうちにもつ起業家精神を解放できる場でありたい
──FTSが持つ「掛け算」の力として、提携するパートナーと、期待されるシナジーについてはどうお考えでしょうか?三輪:東急不動産さんは、これまで渋谷をスタートアップの聖地にするべく、出資も含めてハードとソフトの両面でスタートアップ支援に取り組まれている企業です。アセットであるリアルな場を有効活用するなどして、事業支援の可能性を広げたいと思っています。また、ReGACYさんの事業開発支援のノウハウと実績は、今回の起業支援プログラムなども含めて、実際に事業化に向けて大きな力になります。Forbes JAPANさんにはメディアパートナーとして発信力を借りながら、メンタリングなどにおいてスタートアップ領域における起業家ネットワークも活用できればと思っています。
──現在、FTSが7月末まで募集している2つの事業アイデアプログラムについて詳しく教えてください。
三輪:FTSでは、ミライ起業家をサポートする2つのアイデア募集プログラムを開始しました。ひとつは、アントレプレナーやイントレプレナー(企業内起業家)向けに、世の中の課題を解決する新ビジネスやプロダクト案を募集する「Future Talent Startup Program(FTSP)」です。採択者には、これまでに数多くの新規事業開発を支援してきた専門家や起業家が、事業アイデアの磨き上げから事業計画策定、プロダクト開発、資金調達、体制づくりまでを一気通貫で支援します。
もう一方の「Future Business Idea Contest(FBIC)」はより身近なイメージで、ちょっとした叶えたい夢や実現したいサービスを募集するプログラムです。例えば、皆さんが今使っている地下鉄の乗り換え案内マップも、主婦の方のアイデアから生まれたもの。小学生からご老人まで年齢も立場も問わないので、起業まではまだ考えていないけどビジネスの種を持っている方にぜひ応募してもらいたいと思っています。採用された案に関しては『BooSTAR』とも連動させてもらいながら、実現に近づけていく予定です。
織田:大きい小さいは別にして、誰にでも起業家精神は宿っていると思うのです。それをこの2つのプログラムで引き出したい。少し哲学的な話になりますが、人間は「情緒的」な側面と「機能的」な側面を持っていると思います。「感覚的」か「論理的」かという分け方ともいえるかもしれません。会社という組織にいるとすごく機能的に、効率的に物事を回そうとしますが、一方では直感的に「これがやりたい!」という衝動をエンジンにして行動を起こすことこそが人間の深みや面白さだと思うのです。スタートアップは特にそれが顕著だと思います。
企業の中にもそうした情緒的なアイデアを持つ人はいると思いますが、機能性を求める組織では発生しにくい状況にあるかもしれない。だから私たちはその境界を崩す起爆剤となって、企業の中にいる人の起業家精神を引き出したり、個人のアイデアを企業と一緒に実現したりといったことに挑戦したいと思っています。
三輪:人間の内なるエモーションを喚起して、その情熱を行動に変えていく──。それはマスメディアと広告会社である私たちが得意としてきたことです。感覚的に「このアイデアとこの技術やパートナーが組み合わさればうまくいくかもしれない」という発想が生み出される場や装置をまずはつくって、確かな実力と実績がある伴走者やパートナー企業が持つさまざまなアセットを活用してリアルな事業成功まで導く。情緒的価値と機能的価値をうまく掛け合わせることで、夢とアイデアを形にしたいと思っています。
──最後に、応募者へのメッセージをお願いします。
三輪:誰もが未来をつくる力を持っているし、そうしたスピリットは何歳になっても失ってほしくないと思っています。それを自分ひとりだけじゃなくて企業や数多のプレイヤーとともに実現できることが、今回のプロジェクトや番組と連動した企画の可能性だと思います。テレビ朝日も電通も、ワクワクするコンテンツと広告で世の中を元気に楽しく幸せにしたいという思いを持った企業です。我々が持つアセットをうまく使って夢を実現してほしいですし、私たちもそうした事業やサービス・商品をどんどん世に生み出したいと思っています。
織田:「困ってたら連絡してね」と気軽に言いたいですね。構想はあるけれどこの先1人でやっていくのは不安だなとか、情熱はあるけれどうまくいってないんだよなとか、そうしたフェーズにいる人が頼りやすい場所をつくりたい。SNSでは褒める言葉よりも誹謗中傷のほうがフォーカスされがちですし、軽い気持ちで何かを発言しにくい時代だなと思います。些細なアイデアを言葉にすると「その考えは甘い」とか「大したことない」とか「間違ってる」と言われがちな世の中だからこそ、FTSは誰もが一歩踏み出せる場でありたい。関わるひとたちの勇気を全力で応援したいと思っています。
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ミライ起業家を支援するFTSのプロジェクトは、強力なパートナーたちとともに動き出したばかり。世の中に役立つ新規事業やサービスを生み出す挑戦権は、誰もがその手に握っているのだ。
FUTURE TALENT STUDIO
https://future-talent-studio.com/
アイデア募集プログラムへの応募期間は7月31日まで。詳細は[こちら]