経営・戦略

2024.06.24 15:00

世界のEV市場は減速しても中国新興の小鵬汽車が強気の理由

24年の元日、何は7人乗りの多目的車(MPV)、X9を発売した。価格は36万元からで、ターゲットは高級市場だ。今後はより早いペースで製品を発売するという。しかし同社も、EV業界も今、中国で再び販売の減速に直面している。中国工業情報化部の辛国斌副部長は今年1月、国内でのEV事業が過剰となった結果、外需「不足」が生じたと認めた。当局は、財務や流通などを通じて中国のEV輸出事業を支援するとしている。
 
24年のシャオペン株は、2月半ばの時点でニューヨークと香港の両取引所で30%以上下落し、前途多難なスタートを切った。新たな価格競争だけでなく、中国経済への懸念が背景にある。シティのアナリストは2月、シャオペンの目標株価を39.90香港ドルから28.30香港ドルに引き下げた。イーロン・マスクが、テスラの24年の販売台数の伸びは著しく低くなると警告したことも、投資家のEV関連株への関心を低下させた。自社株で富を成す何の保有資産は、21年のピーク時の55億ドルから70%減り、現在は15億ドルになっている。

売り上げの半分を海外で

成長を求め、何は欧州に目を向けている。中国に続く世界第2位のEV市場(納車台数ベース)である欧州は、35年から非EV車の販売を段階的に禁じようとしている。しかも、自動車輸入税は米国の最大27.5%に対して、10%に過ぎない。

欧州にも課題はある。中国本国での供給過剰を受け、欧州でEV車を売ろうとしているのはシャオペンだけではない。王傳福が率いるBYDをはじめ、十数の中国EVメーカーが欧州で競争を繰り広げている。欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は昨秋、世界の市場は「安価な中国製EV車であふれている。その価格は国からの巨額の補助金によって人為的に低く抑えられている」と指摘。欧州連合(EU)は中国のEVメーカーに対しダンピングの調査に乗り出している。中国もこれに対抗し、1月にEUの酒類に対して同様の調査を始めた。

何は、欧州と、次いで東南アジア、中東、ラテンアメリカで事業を拡大していく決心を固めている。今年は、エジプトにも進出する考えだ。

「シャオペンを海外で中高級ブランドとして確立させたいのです」(何)

中央が、小鵬汽車(XPENG)創業者の何小鵬(ハー・シャオペン)(VCG / Getty Images)

中央が、小鵬汽車(XPENG)創業者の何小鵬(ハー・シャオペン)(VCG / Getty Images)

何によれば、シャオペンは今年、欧州向けの自動運転技術の研究に着手する。いずれは欧州域全体で先進的な自動運転機能を利用できるようにするためだ。また、欧州の工場や供給事業者と提携して現地で車両を製造する考えだ。

しかしアナリストは、高級ブランドとしてのイメージの確立でシャオペンは苦戦を強いられるとみている。欧州の消費者は、高級車といえば依然としてポルシェやメルセデス・ベンツなどの現地ブランドを好むからだ。何は忍耐強く取り組んでおり、最終的には売り上げの半分を海外で稼ぎたいと話す。
 
中国国内にしても、競合はテスラだけではない。シャオペンは1月にP7iシリーズのある人気モデルの価格を15%引き下げ7000ドルの割引を提供したが、HSBC前海証券の試算によると、今年発売が予定されているEVモデルは120ほどもある。一方、中国汽車工業協会は、中国では今年、新エネルギー車の国内販売台数は約1100万台となり、成長率は20%まで鈍化すると予想している。23年の成長率は38%だった。
 
シャオペンはX9の投入によって高級市場に参入するだけでなく、恐らく第3四半期には大衆市場向けブランドも発表する。こちらは配車サービス大手の滴滴出行との協業で、プライスポイントは約15万元ともっと低い。昨年8月、ディディは自社のスマートEV事業をシャオペンに7億4400万ドルで売却し、両社は共同での新型モデル開発で合意した。
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文=ワン・ユエ 写真=ファン・イーフェイ 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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