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2024.06.28 20:00

AI SUMMIT 2024 生成AI×経営 実例から成功の形を導き出せ<⽣成AIと人間の創造性の未来>

生成AIの急速かつ世界的な普及により、古くて新しいテクノロジーイシューだった「人間中心のAI」は、今や人類の多くが関心を寄せるマクロアジェンダへと変化している。そこで今回は、⽣成AI時代における人間の創造性、働き方の未来と生産性革命、AI人材育成など、人間に残された価値を高めるためのクリエイティビティの未来についてディスカッションする。

登壇したのは世界最大級のビジネス特化型SNS「LinkedIn(リンクトイン)」を運営するリンクトイン・ジャパンの代表 田中若菜と、生成AIをテーマに取り入れた小説「東京都同情塔」(新潮社)で第170回芥川賞を受賞した九段理江。モデレーターを務めたのは、PwCコンサルティングの執行役員 パートナー/Future Design Lab所属の野々村健⼀だ。


「最近実施した『The Global Future of Work Report: State of AI @ Work』の調査結果では、2016年と比べて、AIスキルをもつ登録メンバーが約9倍に増えていることがわかりました」

セッション冒頭で、田中は世界200カ国で10億人が利用する「LinkedIn(リンクトイン)」の調査データを提示し、こう切り出した。なかでも日本ではAIスキルについての関心が24%も上昇しており、世界平均から抜きん出ているという。

左から、田中若菜 リンクトイン・ジャパン 日本代表、九段理江 芥川賞作家、野々村健⼀  PwCコンサルティング 執行役員 パートナー/Future Design Lab

左から、リンクトイン・ジャパンの代表 田中若菜、九段理江 芥川賞作家、野々村健⼀ PwCコンサルティング 執行役員 パートナー/Future Design Lab

「少子高齢化が進み、将来人材の採用が難しくなることが予測される日本では、企業もまたAIスキル人材を強く欲しています」

野々村は自身の経験から、ビジネスシーンにAI関連のスタートアップが急増していることを実感しているという。最新テクノロジーの導入がなかなか進まなかった日本企業にも、生成AIの普及をきっかけに変化の兆しが見えてきたと指摘する。

「その理由は、生成AIが日本の国民性にとてもマッチしていたから。人目を気にしなくて済む匿名性、言語の壁を考えずに気軽に日本語で話しかけられるという特性が、普及を促進したと考えています」



生成AIを活用する小説家として脚光を浴びる九段は、日本の仕事のあり方自体に特性があるとみる。

「マニュアル仕事がとても多い。だからAIが取って代わりやすいのだと思います。その一方で日本は、言葉にならない表現で意思を伝えるハイコンテクスト社会でもあるので、完全にAIに置き換えるのは難しい部分もあると思います」

生成AI時代に、求められるスキルは変化するのか

「AIによってどれだけ人間の仕事は奪われるのか」

次のテーマとなったのは、近年ビジネスの現場の各所で取り上げられている課題だ。田中はリンクトインの調査結果をもとに、今「仕事に必要なスキルの入れ替わり」が起きていると解説する。

「かつて、必要なスキルの入れ替わりが27年には50%に達すると予測されていました。それが生成AIの登場以降は、30年には65%が入れ替わると予測されるようになりました。同じ仕事をしていても、大半が新たなスキルに入れ替わってしまうのです。

職種にもよりますが、データアナリストなどは97%が変わってしまうと考えられています」



それでもAIに取って代わられないスキルもあると田中氏は強調する。

「それは、リーダーシップやコミュニケーション、クリエイティブ要素などの人間らしさを表す『ソフト・ピープルスキル』です。そこには、日本ならではの『あうんの呼吸』に基づいた行動や、空気を読むといった判断力も含まれ、それらのスキルは今後より重要度を増すと考えられています」

野々村は仕事柄、データをもとに緻密な未来予測を続けている。それらの予測は、大きなスキル変化が起これば当然変わっていくという。こうしたスキル変化の影響は小説の執筆においても表れるのか。野々村が九段に問いかける。

「私の作品の一貫したテーマは、『テクノロジーがどのように意識や言葉に作用し、社会に影響を与えるか』です。『東京都同情塔』ではChat GPTを取り上げ、最新作『しをかくうま』では、この世にまだないテクノロジーを扱っています。そうした機械に頼る部分と、人間が考えるべき部分の葛藤について書いているのです」



九段は、小説家は人や社会が何を求めるかを察知する、未来を見通すスキルが必要な職種だと考えている。

「必ず答えがあるエンタテインメント作品に直木賞が与えられるのに対して、芥川賞は純文学に与えられる賞です。私にとっては純文学とは、答えのない問いを提起する現代アートに属するものだと考えています。

インタビューなどでよく『この作品で何を伝えたいのか』と聞かれることが多いのですが、純文学作家の仕事は問いを立てることそのものだと考えているので、作中に答えはないのです」

「東京都同情塔」は、未来の刑務所についてのストーリーだ。実際に「未来の刑務所」についてChat GPTに質問し、返ってきた答えから九段が着想を得て、執筆を始めたという。

「以前、編集者の方と3時間にわたる食事をして、別れ際に『ウチ(出版社)で小説を書いてほしい。それだけを言いに来ました』と言われたことがありました。そのときは、だったらなぜこんな長時間を使ったのかと混乱しました。

ただその件を生成AIに問いかけたら、『非常に強い緊急性と熱意を感じます』と返ってきて目が覚めました。このように人間の意図をAI越しに知って、腹落ちすることもあるのです」


人間に残された価値を高めるためのクリエイティビティとは

野々村は日頃クルマの中で、音声を通じて情報収集を行ったり、ビジネスの相談を生成AIと交わしたりしているという。ではビジネスプラットフォームである「リンクトイン」は、どのように生成AIを実装しているのだろうか。野々村の問いに対し、田中が解説する。

田中は、日頃クリエイターから「どのように生成AIを活用したら良いか」と問われることが多いという。そうした問いに対しては、生成AI活用において最も必要なのは「問いかける力(問いをつくる力)」だと答えているという。そしてそのためにはテクノロジーを理解することと、データの出所を明らかにすることが大切だと田中は力を込める。

AIへの問いかけに関して、九段も賛同し、持論を展開する。

「私がちょうど1年前、『東京都同情塔』を書き始めたときに、Chat GPTに『あなたと私は同じ人間です』と伝えたら『違います』とはっきり言われました。しかし最近、同じ質問をしたところ、違う答えが返ってきたのです。

『それは深い質問ですね。なぜそうした疑問が浮かんだのでしょうか』と逆に聞かれてしまいました。

Chat GPTがどのように変化し、そうした出力をするに至ったのか。それを知るには、AIに対するリテラシーを高める必要があります。そのうえで問いを立てる必要があるのではないでしょうか」

野々村はリテラシーの重要性に同調しながら、必要なスキルをAIが肩代わりすることによって、デザイン、音楽、映像などのさまざまなアート分野で数多くの作品が生まれるだろうと予測。そして、クリエイティブの定義についてひとつの問いを立てた。

「昨年、写真コンテストでAIが優勝したことがありました。それを知ったとき、ふと疑問が湧いたのです。人間がつくるからクリエイティブなのか、AIもクリエイティブな作品を生み出せるのかという疑問です」

九段はその問いに対して、「東京都同情塔」での唯一の失敗を挙げた。

「人間もAIも作品をつくることができますが、判断するのは人間です。『東京都同情塔』ではどこに生成AIを使ったのか、自分では一目瞭然だと思っていました。しかし現実には、AIに馴染みのない人々から『どの部分に生成AIを使ったのか』という質問 が殺到しました。つまり読み手のリテラシーによって、作品の評価自体が変わってしまうのです。

ただ『AI vs人間』でクリエイティブを競うという構図はしっくりきません。これまでも人類は、過去からの集合知を使って進化してきました。AIもまた集合知を使っているわけで、ツールが変わっただけなのです。

それに世代的にデジタルネイティブな自分は、世間が騒いでいるほどには生成AIの画期性を感じていないというのが正直なところです。デジタルはもっと自然に寄り添ってくれるものだと感じているのです」

スキルベース採用の加速とリスキリングの重要性

生成AIが自然に生活に溶け込んでいく未来を目前にして、労働市場は今、転換期を迎えている。加速しているのはジョブ型、スキル型の採用だと田中は指摘する。

「米国ではすでに大卒でなくてもAIスキルがあれば多くの企業で採用される時代に移り変わっています。数値にすると36%が、学位条件を除外した求人になりました。どんなスキルをもち、どんな働き方をしたいのかが重要視される時代になったのです」

ビジネスSNSである「リンクトイン」ではAI活用により、ある人物と同じ経験・スキルをもつ人物を、10億人のなかから瞬時に探し出せるという。そもそもはSNSで生成AIに関する投稿が増えたことから、「リンクトイン」内に生成AIを学ぶコースを設置し、そこから採用市場が生まれるという経緯があったと田中は語る。

「生成AIの進化により、必要とされるスキルの変化がとても速くなっていることに驚きました。ただ生成AIが進化するほど、人間の考える力が退化してしまうのではないかと危惧しています」



野々村の危機感に対して、九段が同調する。

「確かに人間は弱い生き物だから、考えることをやめてしまうかもしれない。楽をしても生きていけるから。ただ私は苦しくても自分でプロットを立て、書きたい。自分だけの視点で書かなければ、意味がないと感じています。

私の作品に登場する人物も、ある人物の伝記の記述をAIに頼ろうかと悩みながらも、『自分で理解した言葉でなくては相手に伝わらない』と思い直します。

私をAI肯定派と考えている人々にとっては、AI批判の部分も多く、驚くかもしれません。
しかし私も今後、どのようにAIを使っていくべきかを考え、問いを立てている最中なのです」

AIに対して深い考察を続ける九段だが、一方で創作の苦しみに対しては筋トレでアプローチしていると言う。

「AIにはない身体性を意識するために、筋肉を追い込んでいます。レジリエンスを高めるためにはこれしかありません」

そんな九段の影響で、田中もジム通いを始めたと打ち明ける。求められるスキルが日々変わっていく世の中においては、自分の身体と精神を維持する最適な方法だと共感したのだ。

「未来に向かって生き抜くためには、強い心が必要です。もちろんリスキリングも重要で、すべての人に必要だと考えています。しかし苦しいことは長続きしにくいのも現実です。だから学びの発端はぜひ、人間ならではの好奇心から始めてほしいですね。

『LinkedInラーニング』は隙間時間の3分間で学ぶことのできるメニュー。自分の興味を掻き立てるメニューを選ぶことで、時代の変化を楽しみながら乗り切ることができると思います」

野々村は2人の意見を聞きながら、改めて人間らしさについて考えたという。

「筋トレは身体性を意識するためのものと九段さんは言いましたが、確かに近年ウェルビーイングなど、ビジネスの世界でも健康な身体に注目が集まっています。健康な肉体があってこそ、正しく好奇心を抱くことができるし、苦しいときにもくじけずに乗り越えることができる。

そこに必要スキルが変化し続けるAI時代を乗り切る、人間の姿のヒントが隠されているのだと思います」


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