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2024.06.15 08:00

GalaxyユーザーにアップルはAIのセキュリティ問題をつきつける

しかし、実際にWWDCで発表されたのは、アップルの見事な戦略だった。これが予告どおりに機能するなら、スマートフォン向けAIを再定義し、ライバルにとって乗り越えられない壁を打ち立てる可能性がある。デバイスとクラウドにおけるAppleシリコンの閉じたエコシステムで、ユーザーのデバイスから送信されるAIのクエリやデータに対して、ほぼエンド・ツー・エンドの暗号化処理が行なわれる。これにより、データは擬似的に匿名化され、外部の研究者がサードパーティ認証を提供できるほどの高度な分離と保証がなされる。

サムスンには、これに対抗する手段がない。同社のハイブリッドAIのアプローチは、突然、粗雑で魅力に欠けるように見えてきてしまった。アップルはオンデバイスとクラウド両方の世界最良の部分を提供し、「クラウド上でも、あなたのデータはアップルでさえも保存できずアクセスもできません」とユーザーに約束することが可能だ。さらにその一方では、オンデバイスだけでは完了しない最高の生成AIも提供できる。理論上は、アップルの「Private Cloud Compute」もはこの分野を再定義する。

皮肉なことに、米国司法省(DOJ) や他の機関がアップルに対して、その壁に囲まれた庭がユーザーに害を及ぼしていると主張する中、この新しいAIアーキテクチャはまさにそのエンド・ツー・エンドのコントロールに依存して機能している。アップルは、デバイス上とクラウド上のソフトウェアとハードウェアを検証でき、両者の間に密接なインターフェイスを提供する必要がある。これは自社製のプロセッサ自体にもおよび、両端にはこれを念頭に置いて設計された独自のカスタムプロセッサが使われている。

ジョンズ・ホプキンス大学の暗号専門家マシュー・グリーンが説明するように、アップルは常にオンデバイスを好んできたが、「問題は、最新のスマートフォンの『ニューラル』ハードウェアは改善されているものの、十分な速度では改善されていないということです。これは根本的にサーバーを必要とする」のだ。

アップルは次のように述べている。「プライベートクラウドコンピューティング(PCC)は、アップルデバイスの業界最高のセキュリティとプライバシーをクラウドにまで拡張し、PCCに送信された個人ユーザーデータが、ユーザー以外の誰にもアクセスできないようします。もちろんアップルもアクセスできません。プライバシー用に設計されたカスタム・アップルシリコンと強化されたオペレーティングシステムを搭載したPCCは、これまでにないスケールでクラウドAIコンピューティングに導入された、最も先進的なセキュリティアーキテクチャだと私たちは考えています」

このアプローチは容易ではないとグリーンはいう。「信頼できるコンピュータを構築することは、コンピュータセキュリティにおける、文字どおり最も難しい問題です。正直なところ、それはほとんど唯一の問題なのです。しかし、この難題にもかかわらず、私たちは多くの進歩を遂げてきました。アップルはそのほとんどの技術を使っています」

それだけ重要なことなのだ。Image PlaygroundやGenmoji、色付きのアプリアイコン、より柔軟なホームスクリーンは忘れても良い。今回のWWDCでの革新的なアップデートはアーキテクチャ的なものであり、アップルのここ数年で最大の大規模イノベーションである。新しいチェーンのすべてのリンクが保証され、ハードウェアとソフトウェアの両方が他のリンクによって検証される。
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翻訳=酒匂寛

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