個人攻撃に対する重大な懸念も
コロナ禍が始まってすぐにアメリカでは「中国ウイルステロ説」が流布され、それをトランプ前大統領も同意するような言説を繰り返したが、パンデミックの正確な発生経緯は未だ確証を持ってわかっていない。民主党寄りと言われるニューヨーク・タイムズ紙も、6月9日の紙面で、「あれは不透明な運営」だと非難のコラムを載せ、ウイルスは人工的な改変の可能性が高いという趣旨を伝えている。しかし、確証のないものを科学者がそうだと断じたときにそれが国策に与える影響を思えば、その非難は行きすぎだとの感想を抱いてもおかしくない。
またワシントン・ポスト紙によれば、前述の共和党女性議員マージョリー・グリーンは、いまでこそ感染症の権威のようにふるまってテレビ画面では大活躍だが、委員会の過去10回の会議のうち7回を欠席していたほどの無関心ぶりだった。
国民が関心をもったのは、ファウチ博士のこの個人攻撃に加え、いまだに彼とその娘たちが脅迫され、殺害予告を受けるなどの目にあっているということだ。
国難を乗り切るのに、身を挺して働いた科学者に、刑務所に行けとか、博士号剥奪だとかとマイクに載せて国会議員が叫び、それに触発されてコロナ禍で受けた被害やストレスを発散すべく人々が鬼呼ばわりすることがこの国のためになるだろうか?
ファウチ博士は公聴会では、こうした個人攻撃が「優秀な人材がこの分野に参入することの『強力な阻害要因』になると懸念しています」と静かにしめくくった。
この職務に求められているものは予防だ。予防の仕事では1ミリのミスも許されない、それがパンデミックの終わったのちに非国民扱いされるのだとすれば、こうした仕事に参入する研究者がいなくなるという懸念は妥当だ。
お金にならない予防の仕事に就くくらいなら、もっと金儲けができて、議員や国民からの罵詈讒謗を浴びない仕事は、医療業界にはいくらでもあるのだから。
連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
過去記事はこちら>>