2024年2月、マレーシア・プトラジャヤの地で、アジア各国から93社が集い「サステナブルフードの創造と拡大」をテーマに熱い議論が行われた。東南アジアのフードテックベンチャーや、NPO、日本の食品大手企業が参加し、国をまたいだ協業プロジェクトが動き出した。「海藻を食べる文化や発酵食品など地球にも人にも優しい持続可能な食文化がアジアには根付いている。そんな地域から生まれたプロダクトを社会課題解決につなげるため、同じ志を持もった人が集える場所をつくりたい」。そう語るのは本キャンプを主催したSustainable Food Asia CEOの海野慧だ。
日本とマレーシアに拠点を置く同社は、多様性と資源の保全を目指す「環境改善」、栄養改善や未病を実現する「健康アクセス」、労働環境や取引における「社会的公正」の3つをクリアする食品をサステナブルフードと定義づけ、サステナブルフードの開発支援やフードテックなどの企業向けキャンプを開催する。
フードテックといってもスマート家電やフードデリバリーなどさまざまだが、海野は「食材の活用法を工夫することで、食料の供給体制の確保につなげていく」という考えのもと新食材の開発などを行う企業と共同で事業や研究開発を行うパートナー企業のマッチングを促進する。
「0から1を生み出す企業がたくさんあるなかで、その事業が拡大するかは運と縁に左右されることが多い。ソーシャルビジネスはその傾向が強いからこそ、そんな領域で孤軍奮闘している人たちを支え、つなげ、1から10を生み出したいと思ったのです」と語る海野。新卒でインターネットメディア事業をはじめとした事業開発を行うじげんに入社後、大手企業とソーシャルベンチャーのアライアンス支援を行うCarpeDiemを創業。社会課題のなかでも「食は世界80億人全員が当事者。アプローチ次第で貧困から環境まで幅広い社会課題を解決する糸口となるはず」とスタートアップの創業や事業拡大を支援するリバネスとともに、22年にSustainable Food Asiaを立ち上げた。
マレーシアでのキャンプは今年で2回目。今回はコーヒーかすを酸化防止剤などに応用し、さらに昆虫の飼料として堆肥に戻していくプランや、昆虫が食べて分解できるプラスティックの開発など国や企業規模を越えた新しいビジネスプランが生まれた。「アジアはサステナブルな食事が定着している一方で、欧米のルールフォロワーとなる傾向がある。日本だけではなく、アジア域が一体となって世界に働きかけることが必要」と強調する。
国外とのつながりを意識する一方で、虎ノ門のオフィス街で「サステなおむすび」と名付けた飲食店を構える。大量廃棄の問題にもなっている熱帯地域の果実「ジャックフルーツ」のフルーツミート入りのおにぎりなどが食べられるほか、壁一面にサステナブルフードの商品などが並び、フードテックの最新情報が共有される場にもなっている。「素晴らしい商品や技術が開発されても、食べる人がいなければ意味がありません。“気づいたら食べていた”そんな地球にも人にも優しい新たな食を身近なものにしていきたい」
うみの・さとし◎新卒で創業期のじげんに入社。事業管掌役員としてIPOをけん引し、ベトナム現地法人の代表などに携わる。2020年にソーシャルビジネスを展開する企業を支援しようとCarpeDiemを創業。22年にリバネスと合弁でSustainable Food Asiaを設立し、代表取締役に就任。