チリワインの素晴らしさを広めることに尽力するエデュアルド・チャドウィック氏の言葉だ。日本でもすっかり定着しているチリワインだが、プレミアムクラスはまだ味わったことのない人も多いのではないだろうか。今回は、こうした、チリワインの世界をご紹介したい。
チリをファインワインの世界地図に載せる
チャドウィック氏は、1870年創業のチリの名門ワイナリー「ヴィーニャ・エラスリス(Vina Errazuriz)」(現在は「ヴィニェドス・ファミリア・チャドウィック」が所有する4ブランドの一つ)を所有するファミリーの5世代目として生まれ育った。ボルドーに留学後、家業に参画。その後、カリフォルニアのロバート・モンダヴィと合弁でチリに「ヴィーニャ・セーニャ(Vina Sena)」を設立するなど、チリを舞台に高品質のワインを手掛けている。今から20年前、ワイン産地としてのチリの知名度は高まっていたが、世界でも高品質のワインを造り得るとはあまり知られていなかった。そこにもどかしさを感じていた同氏は、2004年、36人のワイン批評家や専門家をベルリンに招き、ボルドーやトスカーナのトップクラスのワインと、自身のチリワインをブラインドで比較試飲する「ベルリン・テイスティング」を開催。これは、1976年にカリフォルニアワインの可能性を世界に知らしめた、パリスの審判とも呼ばれる「パリ・テイスティング」から着想を得ている。
パリ・テイスティングを主催したイギリスのワイン専門家、故スティーヴン・スパリア氏がベルリン・テイスティングのホストを務めた。スパリア氏はのちに、結果次第では、チリワインの可能性を示すどころか、反対の効果を招いてしまうリスクもあるこの行動を、「とても勇気があることだと思った」と語っている。
結果は、ボルドーの一級シャトーらを凌駕して、自身の2000年の「ヴィニエド・チャドウィック(Vinedo Chadwick)」が首位を獲得。さらに、2001年の「セーニャ」が次点に続き、10位内にチリワインは、4つがランクインした。
2024年に開催の「ベルリン・テイスティング」20周年記念イベント
チャドウィック氏は、その後も世界各地でこうしたテイスティングを開催し、チリワインの発信を続けてきた。そして、この歴史的なテイスティングから20年が経った今年、ベルリンを皮切りに世界各地で記念イベントが行われている。東京では、5月下旬に、チャドウィック氏とソムリエの田崎真也氏によるホストで、特別なセミナーが開催され、チャドウィック氏が手掛ける4銘柄のワインの、複数のヴィンテージで構成された、計13ワインの比較試飲が実施された。
各銘柄、どの年のワインを試飲するかは、田崎氏が、数カ月前にチリのワイナリーまで赴き選んだという。「進化の過程がわかるものを選んだ」という田崎氏だが、試飲の順番も、新しいものから古いものに遡るのではなく、あえて逆にすることにより、参加者に彼らのワインの歴史を辿ってもらうという配慮がなされていた。