英科学ジャーナル「ネイチャー」で2024年3月に発表されたこの研究によると、船舶燃料に関する新たな国際規制が2020年に導入されたことで(船舶燃料油に含まれる硫黄分の濃度を3.5%以下から0.5%以下に変更する規制)、二酸化硫黄の排出量が大幅に減少し、その結果として「終端ショック(termination shock:太陽ジオ・エンジニアリングを突然中止した結果、今まで打ち消されていた温暖化効果が突然顕在化し、気温が急激に上昇すること)」につながったという。これにより、今後7年で、世界の全海域に摂氏0.16度の熱が加えられ、地球温暖化は大きく加速する可能性があるとのことだ。
NASAの科学者チームによれば、船舶が「硫黄含有量の高い燃料」を燃焼させると、二酸化硫黄が発生し、それが大気中の水蒸気と反応して、硫酸塩エアロゾルが生成されるという。この硫酸塩エアロゾルは、太陽光を宇宙に反射する働きがあるほか、(雲ができるときの凝結核となるため)雲の量を増やし、海などを太陽から遮る効果もある。
研究チームによると、そうした効果をもつ二酸化硫黄の排出量が削減されたため、結果的には、海に届く太陽エネルギーが多くなったという。
研究論文ではさらに、今回の知見によって、ジオ・エンジニアリング(気候工学)技術の1つである「雲の増白」が有効である可能性が示されたと述べられている。一部の研究者は、こうした増白は地球の冷却に役立つ可能性があるという見解を示している(硫酸塩エアロゾルを増やすと、雲量が増え、雲がより白くなる結果、より多くの太陽光が宇宙空間に反射されるようになるという理論)。
論文著者で、地球システム技術統合センター(JCET)の科学研究員ティアンリ・ユアンはソーシャルメディアへの投稿で、この影響は「意図せざる気候工学的事象」と言っていいと述べた。また、研究チームの知見について取材に応じた際には、「私たちの計算が正しければ、今後10年は非常に暖かくなることが示唆される」と語っている。
この研究論文は、次の2つの点で議論を呼んでいる。1つは、世界の海運業による排出量(または排出量の急減)が地球温暖化に及ぼす影響の程度について、一部の気候科学者が異議を唱えていること。2つ目は、人為的に地球を冷却しようとするジオ・エンジニアリングに関する議論で、こうしたプロジェクトでどのような予期せぬ結果がもたらされるのかわからないという懸念が提示されている。
英レディング大学国立大気科学センターのローラ・ウィルコックス准教授は、今回の論文で研究チームが用いた方法に疑問を呈している。同氏はメディアに対して、この論文では「気温の変化とジオ・エンジニアリングについて、非常に思い切った記述が一部で展開されており、エビデンスに基づいて正しいと証明するのは難しいように見える」と述べた。