学術誌International Journal of Sexual Healthに2024年2月に発表された論文では、アロマンティック当事者の実体験を検証している。この研究で明らかになったアロマンティックの人たちの体験に関する2つの重要な知見を紹介しよう。
1. アロマンティックの中でも、恋愛に対する考え方には多様なバリエーションがある
一口にアロマンティックといっても、恋愛対象としての他者の魅力に対する態度や体験にはかなりの幅がある。研究チームはこう説明している。「恋愛感情を覚えるか、覚えないかという二分法で語れるような、単純な話ではない。アロマンティック・スペクトラムに含まれる人の多くが、恋愛に対して幅のある見解を持っている(たいていの場合、反発、無関心、戸惑いといった形を取る)。また、特定の状況下では恋愛感情を抱く場合もある」
アロマンティックな指向を持つ人の多くは、恋愛という概念に当惑の念を抱いている。キスやデートといった「恋愛的な意味合いを含む行動」の目的や魅力への理解・共感が薄い。また、恋愛に関する社会規範は自分にとって馴染みがない、あるいは不要なものと捉える人がいる一方で、恋愛自体に嫌悪を抱く人もいる。
研究参加者の一人は、次のように証言している。「世の中にあふれるロマンティックな恋愛の歌を聞いても、みんな本当にこんな風に感じているのかと不思議に思う。恋愛相手にめちゃくちゃにされてもかまわない、なんて本気で思っているのだろうか。自分が『誰かのものになる』ことを実際に許容できるのか? こうした“契約”はフェアでないように見える。もしかすると本気なのかもしれないが、私はたじろいでしまう」
他にも、自分の指向について、恋愛や恋人関係といった既存の社会構造に組み込まれた概念を否定するものだと捉えている人もいる。
25歳の研究参加者は、こんな心境を語っている。「自分にとっては、自身が他人に恋愛感情を抱かないというだけでなく、社会から押し付けられた“台本”である恋愛という概念そのものにも賛成できない、ということだ。ゆえに、自分の意思で既存の構造そのものから完全に抜け出したいと思っている」