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2024.06.21 20:00

AI SUMMIT 2024 生成AI×経営 実例から成功の形を導き出せ/三井化学のパーパス・ドリブンな企業の生成AI活用とその先の展望<Session1 >

2024年に入り、生成AI活用の焦点はコスト削減や業務効率化から、新たな付加価値の創造へと移行しつつある。自社のビジネスモデルを変革し、トップライン向上に向けて、企業は生成AIをどのように導入していくべきか──。

AI SUMMIT 2024のキーノートとなる本セッションでは、「Japan Chief Data Officer of The Year 2023」受賞者の三井化学 常務執⾏役員CDO/デジタルトランスフォーメーション推進本部⻑の三瓶雅夫と、経営学者/早稲⽥⼤学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授の⼊⼭章栄をゲストに迎え、製造業界の生成AI活用のトレンドとユースケースを明らかにするとともに、パーパスと経営戦略に則した生成AI活用のエッセンスに迫る。

モデレーターを務めるのは、PwCコンサルティングのAI分野を牽引する上席執⾏役員 パートナー/PwC Japanグループ データ&アナリティクス/AI Labリーダーの藤川琢哉だ。


藤川が冒頭で意外な調査結果を提示した。PwCの調査結果によれば、日本は生成AIの受け入れ体制に関しては世界に対して秀でているという。

「デジタルの分野で日本が秀でることは珍しいのですが、"生成AIの受け入れ体制ができているか"という問いに対しては50%が同意し、世界一であることがわかりました」

その要因について藤川は、「既存ビジネスの存続可能性」に対する日本企業のトップの危機感があると指摘する。DX推進で後れを取ったと感じている日本のCEOが、その反動で、生成AI分野に積極的に力を入れているのではないかというのだ。

「そもそも日本のビジネスは、ドキュメント中心に回っているので、ドキュメントづくりが得意な生成AIと親和性が高いことも要因に加えられると思います」

藤川琢哉 PwCコンサルティング 上席執⾏役員 パートナー/PwC Japanグループ データ&アナリティクス/AI Labリーダー

藤川琢哉 PwCコンサルティング 上席執⾏役員 パートナー/PwC Japanグループ データ&アナリティクス/AI Labリーダー

その一方で、生成AIに対する期待値について日本は世界で最低ランクで、それほど大きな期待を寄せていない。藤川はこの結果についても好意的に受け止めている。

「世界のなかで抜きん出て生成AIを活用し始めている日本は、"何でもできる"という幻想からいち早く抜け出して、現実を見始めているという証拠だと思います」

昨年(2023年)秋の段階で、すでに日本は87%のビジネスパーソンが生成AIを活用・推進・検討中という結果が出ている。その動機は、「労働時間やコストの削減」や「生産性向上による売り上げ増加」のチャンスだと捉えているからだと藤川は強調する。


こうした「日本が世界で生成AI活用に先んじている」ことを示す調査結果について、非常に面白いと反応したのは経済学者の入山だ。彼はその理由はTwitter(現・X) の日本国内における普及によく似ていると指摘する。

「現在日本は世界一Twitter利用者の多い国です。さまざまな技術で出遅れていた日本ですが、日本語をそのまま使うことができるTwitterのインターフェイスがピタリとハマりました。生成AIも同様で、外来のプログラミング言語ではなく、日常使う日本語でプロンプト(指示文)を出せるところが日本で受け入れられた要因なのではないでしょうか」

ただ期待値に関しては、現実を見始めているというよりも小手先の生成AI導入で済ませてしまっているため、思うように結果が得られず、幻滅している段階ではないかと入山は危惧している。

⼊⼭章栄 経営学者/早稲⽥⼤学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授

⼊⼭章栄 経営学者/早稲⽥⼤学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授

三井化学はどのように生成AI導入を奏功させているのか

とは言え、総合化学メーカーである三井化学は見事に生成AI導入を成功に結びつけている。100年の歴史をもち、「化学の力で社会課題を解決する」を目指すべき企業グループ像とする同社は、1兆8,000億円を超える売上高と、1万8,000人を超える従業員を抱える(取り扱い分野はペットボトル、食品トレイ、スマートフォンカメラのレンズ、メガネレンズ、車のバンパーなどの原料と幅広い)。



そんな大所帯の企業を、三瓶はどのようにして変革しているのだろうか。

「三井化学は、2030年に向けた長期経営計画の中核として、『事業ポートフォリオ変革の追求』を打ち出しました。お客さまの要望に基づいた素材を提供する受け身的な『素材提供型ビジネス』から、将来のマーケットを予測してプロアクティブに提案する『ソリューション型ビジネス』へとビジネスモデルを変えていきます」

『ソリューション型ビジネス』には、太陽光発電を効率化するコンサルティングなどの新たな事業機軸がある。パーパス実現のために、三瓶は生成AIで何を仕掛けたのだろうか。

「『ソリューション型ビジネス』への変革のためには、新規市場、新規顧客の開拓が急務です。そこに私たちは生成AIの力を導入しました。具体的には、生成AIを用いて、化学素材の新規用途の探索に取り組んでいます。各種特許、世界中の論文や各業界のニュースなどの大量の情報を生成AIに学習させて、自社固有の辞書を作成することで、新規用途の発見数を倍増させることができました」

生成AIの導入はコスト削減、業務効率化を目的に導入されることが多いが、三井化学の場合は、新規市場、新規顧客の開拓やトップライン(営業収益)の拡大といったパーパスの実現を目的に生成AIを導入している。

「例えば、食品包材用の素材が電子部品関連にも使えるという新規用途や、建築用の素材が半導体関連にも使えるという新規用途を発見することができました」

そうした素材の新規用途はすでに190例が見つかっており、実際のビジネスに導入されようとしている。

三瓶はSNSのビッグデータの活用にも積極的だ。500万件のデータをマッピングして、相関ネットワーク分析を行った結果、地方電鉄の「カビ臭さ」への言及を数多く発見。該当する鉄道会社への防カビ剤提案にまでこぎ着けたという。

両利きの経営を実現するための生成AI導入のあり方

経済学者の入山が反応したのは、コスト削減、生産効率化ではなく、三井化学のパーパスに直結する働きを、生成AIに実行させていることだった。

「私が提唱する『両利きの経営』では“知の探索"と"知の深化"が不可欠です。1つのテーマを深掘る"深化"に関しては、人間でもある程度は可能です。

しかし人間には認知の限界があるので、遠くにあるもの同士を関連させることは、とても面倒で難しいし、時間もかかります。その意味でさまざまな場所から知識を吸収させ、AIを使って新規の組み合わせを考え出させるというのは、非常に理にかなっています」

その上でビジネスとしての知見を持って、「最後に人間が判断する」。未来に向けて再構築される企業ビジネスは、そうした仕組みへと強力に変化する必要があると入山は強調した。

三井化学の人材育成〜DX教育ロードマップ

次に鼎談のテーマは、人材不足の現状へと移った。入山は日本企業について、中長期的な戦略を構築しても、実現させるための人材配置に問題があると指摘した。

「人事と戦略は密接に連動しなくてはいけません。20〜30年にわたって自社で人を育てていくことを企業は考えなくてはならないのです」

では三井化学はそうした人材育成の課題にどのように対処しているのだろうか。

三瓶は、まず、AI導入初期は「3 in a BOX」体制から始めるべきだと解説。つまり、業務が分かる現場データサイエンティストと、AIの仕組みやアルゴリズムに精通したデータサイエンスチームと、ツールの扱いに長けたAIベンダーの3者体制だ。この現場データサイエンティストには、リスキリングした社員を登用するのが理想だという。

三瓶雅夫 三井化学 常務執⾏役員CDO/デジタルトランスフォーメーション

三瓶雅夫 三井化学 常務執⾏役員CDO/デジタルトランスフォーメーション推進本部長

現場データサイエンティストを育成するために三井化学が導入しているのが、レベル0(データ活用の重要性を理解:全社員必須研修)/レベル1(上位者のサポートのもとデータ分析の作業が可能)/レベル2(独力でデータ分析を実行できる)/レベル3(達人領域)まで、それぞれの必要要件を細かく定義した4段階の「DX教育ロードマップ」だ。

「長期経営計画の実現をリードする人材に対して優先的に研修を進めています。また研修体系も長期経営計画を実現するために必要なスキルを因数分解してマッピングしたものにしています。加えて、研修内容も工夫しています。例えば、一般的なデータ分析の研修はBtoCのユースケースを例題にしていることが多いですが、当社の研修は自社に合わせて、BtoBの化学業界をユースケースにした内容にしています。これにより、研修内容が直接仕事に結びつき、自分ごとになり、習得の敷居も低くなります」



入山はそうした施策を可能にする人事との協調にも言及する。

「ここまで大胆な改革を行うためには人事との連携が欠かせません。戦略を実現するための教育であり、学んだ内容を生かして現場に改革を起こせる人材配置等が、DXでは重要になってくるからです」

生成AIで新たな価値を創造していく方法

三井化学の取り組みについて、入山はベストプラクティスだと高く評価した。

「生成AIといってもやはりツールです。使うことが目的になってはいけません。企業の目的はパーパスを実現して利益を上げること。そのために必要なイノベーションを、生成AI活用で得るというのが正しい文脈です」

つねに最重要なのはパーパス。ただ企業はかみ合ってうまく回っている既存の仕組みを変更することは、一部と言えどとても難しく、現場の抵抗もあると入山は指摘する。

「企業全体を改革しない限り、生成AI導入などのDXはなかなかうまくいかないものです。変革の要となるのは人事・人材。DXを推進する三瓶さんが人事と密に協調していることが三井化学の成功を生み出しているのだと思います」

三瓶は、変革を進めるためには、生成AI導入に取り組む際に、現場の負担をできるだけ軽減する工夫も必要だという。

「現場が疲弊しないように、PoC(実証実験)は2カ月で終えると決めています。またスモールウィンでもいいので、期間を区切って早めに成果を実感できることがモチベーションの向上につながると思っています」

今後、多くの業務が生成AIに置き換わっていく中で、人間を中心としたビジネスプロセスのリデザインを進め、日本が世界にGIVEしていくメンタリティに変わっていくことが重要と三瓶は力を込める。

最後に藤川は、今回のセッションによる三井化学の事例、入山の知見が、日本の生成AI導入のさらなる成功に結びつく確信を得たと結ぶ。

「これまでDX後進国と呼ばれてきた日本。海外の事例を参考にDXを推進してきました。それが生成AI導入に関しては一転、三井化学のように世界をリードする事例が登場してきました。

こうして成果を重ねていけば、世界に対して日本企業が生成AI導入成功のロールモデルを数多くGIVEできる存在となれるはずです」




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