原子力発電所の建設を計画しているウズベキスタンは先月下旬、欧米の制裁対象となっているロシア国営原子力企業ロスアトムと契約を結んだ。建設が実現すれば、中央アジア初の原子力発電所となり、温室効果ガスを排出しない電力が供給されるようになる。他方で、ウクライナ侵攻を機にロシアの軌道から外れた中央アジアで、ロシアが影響力を取り戻すことになる。だが、中央アジア全域でロシアが成功しているわけではない。隣国カザフスタンは、少なくとも今のところはロシアの進出を拒絶している。カザフスタン政府は、中国、ロシア、韓国、フランスの4カ国からの提案を検討中で、今秋実施される国民投票で決定する予定だ。
原子力を巡る西側諸国との競争でのロシアの躍進は、避けられないものではなかった。同国の進出を可能にしたのは、米国の自滅的な原子力政策にほかならない。原子力は一般には誤解されやすいが、実は最も環境に優しく安全なエネルギーの一形態で、気候変動に対処するためにも必要だ。世界の国の大半はこれを認識しているが、米国は無視している。こうした米国の無知が、敵対国に地政学上の重要な隙を与えているのだ。
原子炉建設の分野では、ロシアは世界的な主要国であり続けている。世界の原子力産業の現状に関する報告書によると、ロシアは昨年7月時点で、中国、インド、トルコ、エジプト、バングラデシュ、イラン、スロバキアの世界7カ国で原子炉を建設中だった。ロシアが原子炉を建設している国のうち、トルコとスロバキアは北大西洋条約機構(NATO)に加盟している。
ロシアは原子炉建設以外の分野でも、原子力産業を支配している。同国は世界最大のウラン加工・濃縮産業を有しており、2020年にはそれぞれ世界全体の生産能力の38%、46%を占めていた。これにより、ロシアは核燃料輸出でも主要国となっている。同国は2022年2月にウクライナ侵攻を開始してから現在に至るまで、10億ドル(約1570億円)以上の原子力関連製品を輸出している。
筆者の同僚であるウエスリー・A・ヒルが指摘するように、ロシアはアフリカの地政学的混乱に乗じて、かつてフランスが保有していたウラン資産を獲得しようとしている。これにより、欧州諸国のロシア産ウランの輸入量は昨年、倍増した。米国も同様で、ウクライナ侵攻開始以降2年以上にわたって、ロシアの企業から核燃料を購入していた。米政府は先月14日、ようやく同企業に制裁を科した。